<KAC2024お題作品>彼女の秘密

口羽龍

彼女の秘密

 仕事を終えて帰り道を歩いている健太(けんた)は緊張している。数年前から交際している信恵(のぶえ)にプロポーズをしようというのだ。一緒に暮らしてきたけど、そろそろ夫婦として歩み始めようと思った。今日の帰り道で、以前から予約していた結婚指輪を買ってきた。これを信恵に見せたい。そして、結婚したい。


「さて、今日だな」


 健太は自宅のあるマンションの前にいる。もうすぐ信恵に会える。信恵はいつものように晩ごはんを作って待っているだろう。


「信恵はどんな反応するだろうな」


 健太はマンションの部屋に向かって歩き出した。あと少しで自宅だ。とても緊張している。


「今日、告白しよう。そして、結婚するんだ」


 健太は自宅のドアの前にやって来た。ドアの向こうには信恵がいるはずだ。いよいよその時が近づいてきた。


「ただいまー」

「おかえりー」


 健太が入ると、信恵はいつものように待っていた。それだけで嬉しい。どうしてだろう。


「今日も疲れたでしょう?」

「うん」


 信恵は優しそうな表情だ。信恵の顔を見るだけで、気持ちが和らぎ、疲れが取れる。


「今日はカレーよ」

「ありがとう」


 健太は喜んだ。今日はカレーライスだ。まるで自分が告白するのを喜んでいるようだ。


 手を洗って、ダイニングにやって来た健太は、席に座った。すでに晩ごはんの用意はできている。


「いただきまーす」


 健太はカレーを食べ始めた。とてもおいしい。


「おいしい?」

「うん! おいしい!」


 信恵は喜んだ。健太の笑顔を見るだけで、とても嬉しい。恋人だからだろうか?


「言ってくれて嬉しいな」


 と、健太は真剣な表情になった。いよいよ告白するようだ。


「なぁ信恵」

「どうしたの?」

「話したい事があるんだ」


 健太は少し緊張している。本当に言っていいんだろうか? 別れるきっかけにならないだろうか?


「何?」


 だが、今は食事中だ。言うのは後にしよう。気まずい雰囲気になって、せっかくのカレーがおいしくなくなるかもしれない。


「もう少ししたら話そう」

「わかったわ」


 2人はカレーを黙々と食べている。もう何年もこうだ。そろそろ結婚して、子供が欲しいな。


 2人はカレーを食べ終わった。すると、信恵は食器を片付け、洗い出した。健太は信恵の背中を見ている。


「ごちそうさま」


 と、そこに健太がやって来た。信恵は少し戸惑った。どうしてここに来るんだろう。いつもはリビングでくつろいでいるのに。


「なぁ信恵、話したい事があるんだけど」

「何?」


 信恵は驚いた。何を言おうというんだろう。まさか、プロポーズだろうか? だったら、大歓迎だ。やっと一緒になれるのだから。


「結婚しよう。きっと君を幸せにするから」


 だが、信恵は戸惑っている。誰にも言いたくないことがあるような表情だ。どうしたんだろう。


「いいけど、私、秘密があるの。誰にも話さないでね」

「何だよ」


 健太は首をかしげた。言えない秘密とは何だろう。どんな事であっても、秘密にするから、言ってほしいな。


「私、人間じゃなくて、タヌキなの」

「えっ!?」


 健太は驚いた。まさか、タヌキだったとは。じゃあ、いつも見ている信恵は、人間に化けた姿だったのか。少し戸惑ったが、健太はすぐに元に戻った。目の前にいるのは、信恵なのだから。


「ごめんね、言わなくて。そんな私でもいいの?」

「いいけど」


 だが、健太はすんなりと受け入れてくれた。まさか、それでも愛しているんだろうか? プロポーズを認めてくれないのではと思ったが、こんなにもすんなりと受け入れるとは。


「よかった。どうして?」

「なんでって、信恵は信恵だから」


 健太は思っている。目の前にいるのは信恵だ。俺は信恵が好きだから、そんなの全く気にしていない。その秘密を、俺は守ってみせるから。


「よかった。じゃあ、その秘密を守ってくれる?」

「いいよ。幸せにするのなら、誰にも話さない」

「ありがとう」


 信恵は健太を抱きしめた。一緒にいてくれて、ありがとう。これからもよろしくね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

<KAC2024お題作品>彼女の秘密 口羽龍 @ryo_kuchiba

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説