第3話:貴族の常識が無いらしい私




 やっと、王宮での話し合いの日程が決まりました。

 3日後の午後からです。

 参加者は、私の家と婚約者の家、そして教会から聖王猊下と、王族は国王陛下と王妃陛下、そして王太子殿下です。

 猊下が参加するのは、その場で婚約破棄を許可する為、でしょうか?


 普通は一貴族の婚約話に猊下が出て来るなど有り得ないのですが、そこはやはり私が聖女だからでしょう。

 もしかしたら聖女活動が破棄の原因ならば、何か弁護をしてくださるつもりなのかもしれませんが、不要だと伝えなければいけませんね。



 子供の頃の思い出といえば、子供達のお茶会というものがありました。

 私は聖女教育が忙してくてほとんど参加出来なかったのですが、それでも教会の方が気を使って公侯爵家のみのお茶会や、王家主催の子供達のお茶会の時には授業をお休みにしてくださいました。


 そういう時は本来婚約者と一緒に行くものなのですが、私がいつも行かないからか、婚約者からの確認が入った事はありませんでした。

 会場で会い「何でお前が居る!」と怒られる事が多かったです。

 その理由は、「参加するなら婚約者に連絡するのが貴族の常識」なのだそうです。

 その場合、なぜ自分が除外されるのか謎です。


 別に彼の方が私に連絡しても、問題無いのです。

 むしろ、なぜ私が連絡しなくなったのかを思い出して欲しいです。

 参加出来るお茶会を連絡すると、「それは友達と一緒に行く約束をした」や「女と一緒に行くと皆に馬鹿にされる」と言って全部断っていた事を忘れているのですね。



 周りにも婚約者が出来始め、エスコートが恥ずかしくなくなった途端に、私に連絡を強要してくるのはどうなのでしょう?

「どうせ伝えても断るのに無駄でしょう?」というのを、貴族らしく遠回しな言い回しで手紙を出しました。

 そこで今までの事を謝って、「一緒に行こう」という返事が来たのならば、私も素直に連絡をするようになったでしょう。


 それに対しての彼の返事は『貴族は男の言う事が全ててあり、そんな昔の事を根に持つような常識の無い女は嫌われるぞ。だからお前は王太子の婚約者から外されたんだ。お前など、俺しか嫁に迎えないのだから、もっと謙虚になれ。常識の無い女め!』と、このような文章が送られて来ました。

 貴族らしい言い回しなどはなく、これが原文です。


 絶対に一緒になど行かない! と、私が意固地になっても誰も責められないと思います。

 まだ学園入学前の、ギリギリ子供と呼ばれる年齢の事ですし、個別にお茶会に参加しても問題の無い頃の話です。

 その後、私は聖女教育が終わり、聖女として活動するようになってからは、お茶会への参加が出来なくなりました。



 忙しいのと、お休みの日は家で休みたい……いえ、休まないと疲れて倒れてしまうからです。

 聖女は、聖女であるうちに出来るだけ結界を強化したり、魔石に魔力を溜めたりしなくてはいけません。


 魔物が大量発生した場合は、その土地に出向く事もあります。浄化をして、魔物が湧かないようにするのです。

 幼い子供には過酷な仕事ですが、成人したら嫁ぐのが普通なので、聖女は殆ど子供なのです。



 ごく稀に、人生全てを聖女という仕事に捧げる方がいます。

 婚約者が魔物に殺されてしまったとか、元々結婚する気のない平民出身の方です。

 そういう方々は、聖女である事を隠しておりませんが、基本的に一般人の前には出て来ません。


 俗世を捨てる……というのでしょうか。

 人生を神に捧げている、の方が聞こえは良いでしょうか。

 神殿の神父様よりも、もっと神に近い存在ですね。


 もし私がこのまま婚約を続けていたら、彼女達の仲間入りをしていたかもしれません。

 我慢しなくて良くなったので気付いたのですが、私は思ったよりも婚約者の事が嫌いだったようです。


 もう彼と婚姻を結ぶなど無理です。

 まして閨事をし、彼の子供を産むなど、絶対に無理ですわね。


 そういえば、婚約者は私の事を事ある毎に「貴族としての常識が無い」とおとしめていましたが、今なら同意しますわ。

 私は政略結婚だとしても、彼と婚姻して彼の子供を産むなど絶対に無理ですから。



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