【番外編】特務官の休日
リオン・ノーマッドはとてつもなく困っていた。それはもう困っていた。
というのも早朝、魔法便によりから手紙が届けられた。魔法便は個人相手に遠隔で手紙を届ける魔法で使える人間が限られている。
自ずと急を有する内容に限られてくる。
中身を傷つけないようにそっと開けた。破れてしまいそうで、いつも手紙を開ける瞬間は緊張するものだ。
『審議により、以下のチケットをご用意することが出来ませんでした』
『クリアヒルズ発 飛空船1便 部屋指定S室』
『またのご利用をお待ちしております』
何故用意できなかったのか理由はもちろん知っている。
幸いだったのはルーセントからの詫びの手紙と翌日の1便チケットが同封されていたことだろうか。手紙の内容としては今日一日は観光を楽しめとのことだ。
休日にやることもないので任務なり事務なり帰って仕事をしようとしていたのに。ちなみに上司からは散々休めと言われている。
「アルフも旅立ってしまったし、どうしたらいいんだ……」
リオンはどうにも何もしない時間や一人きりで楽しむ娯楽が苦手だった。
冒険者に依頼をした後に奢っているのも、酒は飲みたい。が、独りで酒を飲みたくはない。喧騒の仲、輪から少しだけ外れたところで飲みたいなどという面倒くさい理由だった。
変なところで繊細な男なのである。ストレス発散の一環で
ともかく、冒険者ギルドへ顔を出そうと支度を始める。ギルドカードを提示すれば何か仕事もあるだろうと。
クリアヒルズでは定期的に近くの魔物は討伐が行われており、危険な魔物もあまり確認されていない。魔物の討伐依頼が少ない代わりに飲食店の多い街では採取依頼が多いのだ。
せっかくの港町。採取依頼で海の幸でも分けてもらえないだろうかと下心も込めながらリオンはギルドへと向かった。
「調べてみたんですけど、今任務中に設定されてますね。副業はちょっと……」
「そこを何とか」
「こっちも仕事なんで規則から外れる内容は無理です」
当てが外れた。
休みの日の
仕方がないから滞在している宿屋で一日中瞑想でもして過ごすか、と踵を変えすと血相を変えた男がギルドへ飛び込んできた。
「大変だ! 昨日のビーチが干上がった怒りでニソクホコウツーヘッドザメが人間をわからせに来たぞ!」
「あの伝説の幻獣が!?」
仕事が舞い込んできた。
冷や汗をかきながら連絡網を回そうとするギルド職員をリオンは制した。
「街の治安維持も特務官の務め。私が出よう!」
ビーチに上陸したサメより上位の魔物、サンソクホコウスリーヘッドザメの討伐すらこなした身だ。闘い方は心得ている。
ニソクホコウツーヘッドザメには悪いが人間の生活圏を脅かす存在である以上は討伐しなければならない。普段は魔法で収納している剣を顕現させた。
嬉々としてリオンは駆け出して行った。いくら高貴な生まれであろうと荒事の方が好みなのである。
暴力で解決出来る事柄は難しく考える必要がないのだから。
◆◆◆
と、いろいろあったリオンは観光都市クリアヒルズでの休暇を終えると王都サンテラスへと戻っていた。
「妾は休んで来いと言ったはずだが」
「十分休暇は頂きましたよ。陛下、土産のフカヒレは作成に時間がかかるのであと数週間すれば届く予定です」
リオンの姉であり、現サンテラリア王国女王へと戦果の報告をする。
若干呆れ顔の女王に対してリオンは開き直っていた。「お前は相変わらず何を考えているかわからんな」とフリーダム具合を指摘されるのは慣れている。
『自分探しの旅に出ます』
なんて書置きひとつで学園を中退して数年間の間、国を出奔していたのがいい例だ。
流石に王位継承権は失っていたが絶縁はされていなかった。何代かに一人は彼のような存在が出現してしまうのである。
まだ国の為に働いているだけマシなのだ。
なんて話していると小さな影が二つ飛び込んできた。
「おじちゃま~! 今度はどんな冒険をしてきたの?」
「ははは、お兄様と呼んで欲しいな。ああ、君たちにもお土産はあるからね」
サンテラリアの双子の姫君である。
二人を軽々しく抱き上げ、女王に礼をして退室する。キラキラとした目の幼子に冒険譚を語ってやらねばならない。
このように廃嫡されようが家族仲は良い。なんなら兄も普段は領地経営に勤しみながら家族行事には顔を出す。
大国としては昔から異様なほどに暗殺や権力闘争から縁遠いサンテラリア王国だった。
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