KAC2024 第5回

シノミヤ🩲マナ

第1話で完結

 むかしむかし。

 ここではないどこかに、ふたつのお国がありました。


 もりのおくにと、たにのお国です。

 ふたつのお国は、いつもケンカばかりしていました。


 ですが、森のお国に住むテンちゃんと、谷のお国にむマオくんはなかよしです。

 いつもふたりは、森のお国と谷のお国のまんなかにあるはらっぱで、あそんでいました。


 今日きょうもマオくんとテンちゃんは原っぱであそんでいます。


 マオくんはいました。

「テンちゃんのお羽根はねは、しろくてキラキラしてキレイだね!」


 テンちゃんも言いました。

「マオくんのおつのもツルツルピカピカでキレイだよ!」


 マオくんの背中せなかにお羽根はないけれど、あたまにお角がありました。

 テンちゃんの頭にお角はないけれど、背中にお羽根がありました。

 マオくんもテンちゃんも自分にはない、相手あいてだけにあるお角やお羽根がきでした。


 その日、テンちゃんはマオくんに言います。

「マオくんマオくん! マオくんにだけ、あたしのヒミツをおしえてあげる!」


 マオくんは、わくわくがおきました。

「ヒミツ? なになに?」


 テンちゃんがちいさなこえで言います。

「じつはね……あたし、もうすぐおひめさまになるんだよ」


 マオくんはおどろきました。

「お姫さまになるの!? それはすごいね!」


 テンちゃんはニッコリわらいます。

「えへへ。マオくんだからとくべつに教えたんだよ? だから、だれにもはなさないでね?」


 マオくんはおおきくうなずきました。

「うん! ぼく、だれにもはなさないよ!」


 そうして二人ふたりは、それぞれのお国にかえっていきました。


 谷のお国に帰ったマオくんは、うれしくてしかたありません。

 大好だいすきなテンちゃんがお姫さまになる。それがマオくんには、まるで自分じぶんのことみたいにほこらしかったのです。


 だから、とうとうマオくんは言ってしまいました。


「ねえねえ! もうすぐテンちゃんがお姫さまになるんだよ!」

 

 テンちゃんとの約束やくそくやぶってしまったのです。


 それを聞いた谷のお国の大人おとなたちはおおあわて。


 森のお国には十二人じゅうににんのお姫さま候補こうほがいます。

 だれがお姫さまになるかは、とてもとても大切たいせつなこと。

 本当ほんとうなら森のお国の王様おうさま発表はっぴょうするまでわからないはずでした。


 テンちゃんがお姫さまになる。

 そのはなしは、あっというまに谷のお国にむみんなにひろまりました。


 そしてすぐ、おなじ話が森のお国にもやってきました。

 話を知ったテンちゃんは、かなしくなりました。


「はなさないでって言ったのに」


 しくしくいていたテンちゃんに、森のお国に住む大人たちは言いました。


「テンちゃん、泣かないで」

わるいのは谷のお国のみんなだよ」

「谷のお国は乱暴者らんぼうものだらけだ」

「あの頭にはえた、お角をおもいだしてごらん」

「とってもこわい、お角だろう?」


 大人たちの言っていることがテンちゃにはわかりません。

 テンちゃんはマオくんにいたくなって原っぱを目指めざしました。


 じつはおなじころ。

 マオくんも原っぱに向っていました。


 谷のお国に住む大人たちがマオくんに言ったのです。


『マオくん、よく教えてくれたね』

『マオくんが教えてくれなかったら、また森のお国のみんなにだまされるところだった』

『森のお国はズルいやつばかりだ』

『あの背中にはえたお羽根を思いだしてごらん』

『きみがわるくなるほど白いお羽根だろう?』


 マオくんには大人たちが言っていることがわかりません。

 それでもマオくんは、自分がわるいことをしたと思いました。

 だからマオくんは、テンちゃんにごめんなさいを言いたくて原っぱまで走ったのです。


 マオくんが原っぱにつくと、ちょうどテンちゃんもきたところでした。


 マオくんは頭をさげました。

「テンちゃん、ごめんなさい! テンちゃんがお姫さまになるのがうれしくって、やくそくしたのに言っちゃったんだ!」


 テンちゃんは、ほっぺたをふくらませます。

「だれにもはなさないでって言ったのに……」


 マオくんはなんどもなんども頭をさげました。

「こめん! テンちゃん、ほんとうにごめんなさい!」


 いっしょうけんめいなマオくんを見て、テンちゃんのかなしい気持ちはどこかへんでいきました。

「えへへ。そんなにたくさんペコペコして、マオくんおもしろーい!」


 マオくんが、おそるおそる聞きます。

「もう……おこってない?」


 テンちゃんがうなずきます。

「うん。でも、もうやくそくをやぶったらダメだよ?」


 マオくんは、バァッと笑顔になりました。

「テンちゃんありがとう! ぼく、もうやくそくはやぶらないよ!」


 マオくんとテンちゃんは、なかなおりのあくしゅをしました。


 そのときです。

 谷のお国と森のお国に住む大人たちが原っぱにやってきました。


 谷のお国に住む大人たちは言います。

「マオくん! そのおんなからはなれるんだ! それは森のお国に住んでいるイジワルな女の子だよ!」


 まけじと森のお国に住む大人たちも言います。

「テンちゃん! そのおとこの子といっしょにいたらいけないよ! それは谷のお国に住んでいる乱暴者らんぼうものの男の子だよ!」


 それからも、それぞれのお国の大人たちが、いろいろなことを言いました。

 やがて、大人たちは剣や槍を手にします。

 すぐにケンカがはしまりそうです。


 テンちゃんがさけびました。

「なんで、みんなはケンカばっかりするの!」


 マオくんもさけびました。

「ぼくとテンちゃんはケンカしたけど、すぐに仲直りできたよ!」


 ふたりの子供に「なんで」と聞かれた大人たちはこまりました。

 大人たちにも、なんでケンカしているのかわからなくなっていたからです。


 大人たちのケンカは、大人たちが子供のころからありました。

 だから大人たちにとっては、ケンカすることがあたりまえになっていたのです。


 大人たちも、ほんとうは相手をきらいではありません。

 ただ大人たちは、ごめんなさい、のやりかたをわすれてしまっただけなのです。


「なかなおりするには!」

「こーするんだよ?」


 マオくんとテンちゃんがあくしゅをするのを見て、大人たちもふたりのマネをしました。


 けんやりをすてました。

 かわりに、相手のお国に住む大人たちの手をとったのです。


 それから谷のお国と森のお国は仲良しになりました。


 やがて原っぱには、お国ができました。

 王さまはマオくんで、お妃さまはテンちゃんです。


 原っぱのお国でマオくんとテンちゃんは、いつまでもいつまでも心の手をはなさないで仲良くらしました。



〜おしまい〜

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