転校先で出会ったクラスの美少女たちが、全員使用済みだった件~なあ、「槍坂くん被害者の会」って、知ってるか~
よこづなパンダ
プロローグ 俺は何に浮かれていたのだろうか
第1話 なあ、「槍坂被害者の会」って、知ってるか?
人を好きになるということ。
愛する人と心が通い合い、告白して付き合って―――
漫画やラノベ、アニメなんかでそういった場面を目にして、恋愛に憧れたという人は、この世の中、数多く存在することだろう。
そして俺もまた、そのようなまやかしを信じて、いつか自分もそんな経験をしてみたいと夢見る一人の少年であった。
あの日までは。
♢♢♢
俺・
ここは、某県の地方都市に位置する、ごくごく一般的な公立高校。
年の離れた弟がいる俺は、父親の転勤を理由に、家族についていく形で、東京の高校からの転校を余儀なくされた。
勿論、友達と別れるのは嫌だったし、初めは反対した。
東京に残り、1人暮らしで高校に通いたいと、両親に頼んだ。……1人暮らしの方が、何かと恋愛イベントが発生しそう、って下心もなかったわけじゃないけど。
見知らぬ土地での新生活は、不安でいっぱいだった。
だけど今では、こうして転校したのも悪くない。いや、むしろ良かったと思っている。
一度都会から離れてみれば、新天地にも案外良いところがたくさんあると気づいたからだ。
窮屈さを感じさせない街並み。
そして、東京に比べて、きれいな空気。
少し中心部から離れれば、豊かな自然に囲まれた穏やかな情景があり、人ごみの中で毎朝満員電車に揺られる生活には、もう戻りたくないとすら感じるようになっていた。
―――で、転校して良かった理由だが、勿論それだけじゃない。
ここからが本題と言っても過言ではないが、この学校に転校して以来、俺には学校に行きたい最大の理由がある。
それは、何と言っても……
同じクラスの女子たちが、とても美人なのだ。
もう、これだけで毎日学校に通うのが楽しみで仕方ない。
……こんなことは恥ずかしいから、家族の誰にも言えないけど。
この街に来るまでは、都会の方が垢抜けた子が多くて、綺麗な女子が多いってイメージだった。しかし、濃いめの化粧で誤魔化さず、素材の良さを生かした美人というものが如何に素晴らしいかということを、俺は初めて知った。
中でも、特に綺麗だなと思うのは、
黄条さんは、育ちの良さそうな地元のお嬢様といった印象で、一見プライドが高くツンとした印象を受けるが、学級委員としてクラスのためにいつも真面目に頑張っていて、俺が転校したてで何も分かっていなかったとき、丁寧に2人きりで学校を案内してくれた。
無瀬さんは、艶やかな黒髪ロングが美しい、クールな人だ。休み時間はいつも本を読んでおり、ミステリアスで他の人を寄せ付けないようなオーラがある。芯が強いというか、自分があるところが魅力的だ。
桜咲さんは、明るい性格でクラスのムードメーカー的な存在。スポーツ万能で素直な性格、整った顔立ち。それでいて本人は自覚していないように見えるが、非常に豊かな胸の持ち主でもある。
これだけの逸材が揃っていたら、好みの女の子がクラスに3人くらいいても、仕方ないだろう。
それに……我がクラスには天然で上品かつピュアな性格の絶対的な美少女、
このクラスは一体どうなっているんだ、ってくらいに美少女たちが揃っていて、つい浮かれてしまいそうなところを必死に、気を引き締めて過ごしていると言っても良い。
そんなクラスだが、男子たちはいたって普通で、バカやって笑って、楽しい毎日だ。
陽キャグループの人たちも含め、みんな俺がクラスに馴染めるように積極的に話しかけてくれて、口にするのは恥ずかしいけど、内心では本当に感謝している。
中でも、俺は4人ほどの男子グループと特に仲良くなり、一緒に行動することが増えた。
ちょっとエッチな動画の話とか、二次元の美少女の話とか、こんなに綺麗な子が揃っているんだからもっと目の前の現実に目を向けろよ、とは思うけど、アイツらとの年頃の男子って感じの会話が、どこか心地良かった。
本当にそんな毎日が、楽しかったんだ。
それだけで、良かった。
だけど、俺はある日、素朴な疑問を思わず、口に出してしまった……。
―――それが、決して触れてはいけない話題であったとは知らずに。
「みんな、クラスの子には興味ないの?」
恋バナ。
みんなはどの子が興味あるのか、とか、何となく知りたかったというのも少しあったけど、あくまで俺は、場を和ませようと思っただけで。
本当に、深い意味なんてなかった。
だが、俺の言葉を聞くと、4人は一斉に静まり返ってしまった。
何か不味いことでも言ってしまったのだろうか……。
そう考えて困惑していた俺を見て、だろうか。
やがて、一番のお調子者である
「なあ、
知らない。
だが、槍坂は分かる。
クラスの出席番号が後ろから2人目、いわゆるクラスの左後ろに位置する主人公席に座っていて、整った容姿でスポーツ万能、さわやかな空気を醸し出しているのに、男子たちのグループには属さず、いつも1人で大人しそうにしている男子生徒。
イケメンの無駄使いと思っていた。
ただの普通の好青年だと、そう思っていた。
なのに……
「ウチのクラスの可愛い子、ほとんどみんな槍坂に食われてるんだぜ」
おい、嘘だろ……
頭の中が真っ白になっていくというのは、こういうことを言うのだろうか。
みんな……
それはつまり、あの凛とした黄条さんも、クールな無瀬さんも、無邪気な桜咲さんも……
戸惑いを隠せない俺に、みんなは静かに頷いた。
「誠、ずっとお前には……お前にはいつか明かそうとは思ってたんだ。―――クラスの秘密、ってやつを」
そう言うと、明山は俺にスマホの画面を見せてきた。
そこに映っていたのは、我が高校のホームページ。
転校する前に予め調べていた俺は、何度か開いたことのあるサイトだ。
しかし、明山はそのURLの後ろに、「/YRSK」と入力する。
……すると、そこには見たことのない、黒い背景の怪しげなウェブサイトが映し出された。
そのホームページのタイトルは。
「槍坂くん被害者の会!」
もし本人が作ったサイトだとしたら、自分の名前を「くん」付けだなんて、相当痛いセンスだと思うが……そんなことはもう、どうでも良かった。
俺は、激しい動悸を堪えつつ、必死で画面をスクロールしていく。
そこには―――
いくつかの動画が並んでいた。
『黄条の騎〇位!』
『無瀬の咽び泣き!』
『桜咲の乱れ咲き!』
タイトルを見ただけで、思わず吐き気が襲ってきた。
訳も分からぬまま帰宅した俺は、放課後になって以降、ずっと自室で例のサイトの動画を見ていた。
何れもタイトルからお察しの通り、とても言葉で書けるような内容じゃなかった……。
ちょっと良いな、と思っていた女の子たち。
彼女たちがみんな、槍坂の虜になって、あんなことやこんなことを経験済みだという事実に、俺の脳はすっかり破壊されてしまった。
クソっ、クソっ……
あの日、俺の青春ラブコメは終わりを告げた。
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