第4話 廊下

「ねえ、ちょっといい」

 教室を出て少し歩くと、またも呼び止められる。

 激しいデジャブを感じながらも後ろを振り向くと、これまた女子。

 男子のように短くまとめられた髪が印象的で、俺に対し向けられている視線からもどこか気の強さを感じさせる。

 先程までは悲惨に思われた高校生活も、そう先行き不安というわけではないのかもしれない。

「私、朝比奈奏っていうんだけどさ、同じクラス。さっきの話ちょっと聞いてて、行くの?このあと」

 先程の三人組とはまた違った遠慮の無さで話しかけてくる。

「それは行くけど、どうして?」

「なんの用か知ってるの?」

 首を横に振る。

「私は知ってる。ちょっと話したいんだけど、行きたい所あった?」

「…これから図書室に行こうとしてて」

「なら歩きながら話そ。大丈夫、十分で終わるから」

 朝比奈さんは着いてきてと言い、俺が歩いていた方向とは逆の、教室に向かって歩き出した。図書室の場所自体わからなかったから、道案内を兼ねてくれていると思えば悪くない。

「これからされることだけど、簡単に言えばあんたは告白されるよ」

「まさか」

「あの三人からじゃないよ。関口舞って娘。髪が肩くらいで、マスクつけてる」

 マスクと言われ思い出した。クラスに一人、明らかに顔の大きさに合わないサイズのマスクをつけている女の子が印象に残っていた。

「とはいっても本気の告白じゃないよ。最低なやつ。お遊び感覚でやらせる告白」

 この説明を受け、俺は所謂ところの『告白ゲーム』というものを想像した。彼女ら四人は罰ゲームか何かで僕に告白を行い、本気にしてOKを出した僕を笑い者にするつもりなのだろう。

「わかった。じゃあ断ってやれば良いわけだ」

「えっいや違う違う」

 彼女は首を横に振った。

「えっ違うの?じゃあこのまま帰る?」

 とはいってもバッグ等は教室にあるので、面倒なことになるのは目に見えているが。

「いや、そうじゃないの。私もまだどうして欲しいかはわからないけど、断ったり帰ったりはダメ」

 どういうわけだ、彼女はあの三人から俺を笑い者にしまいと声をかけてくれたんじゃないのか。これではまるで告白を受け入れろと言っているようなものじゃないか。

「でも…『告白ゲーム』なんでしょ、まともに取り合う必要無いんじゃ…」

「ん…?いやそういうのじゃない。そういうのとは別の、最低なものなの」

 朝比奈さんの言っていることの先が見えず、首を傾げることしかできない。

「…着いたよ、図書室。好きに見てていいよ。最初から説明するから」

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