Chapter 5 ライム
不愛想な男の口から産まれた滑稽な答えに思わず吹き出したアルマ。それを見て腹を立てたスピナーは、アルマを置いて全速力でキャンプ場へと走り去ってしまった。どう考えても追い付けないスピード。アルマは少し後悔しながら、小走りで帰った。ベースキャンプに着いた時には、また汗だくになっていた。せっかく温泉に入ったのに。
朝の走り込みの間にみんな起きていた。ガーネットも目覚めていた。すぐに謝罪するアルマ。事情を聴いたガーネットは笑って許してくれた。彼女曰く体調はなんともないが、やはり魔法が上手く扱えないらしい。魔力過剰症による悪影響は2〜3日で治るという話だ。アルマは後遺症とかも残らなそうで安堵した。
オックスの町に向けて、旅を再開する一向。その道中――
「これあげる」
アルマに1つのブリンナが手渡される。その果実を渡したのはライムだった。当の本人は既に自分のブリンナに噛り付いていた。
「ありがとう、ライム」
「いえいえ。朝、たくさん拾ったからね。あ、皮むき用のナイフ要る?」
「要らねぇよ。こいつは皮ごと派だ」
スピナーが口を挟む。いつかの夕食時にも『皮ごと派』と言っていたことを思い出したアルマ。林檎のようにブリンナという果実を、皮をむいて食べるか、丸ごと食べるかで派閥があるんだろう。
「あの時は、ディーアが丸かじりしていたのを真似ただけなんだ。皮むいたバージョンも食べてみたいな」
ナイフを受け取ろうとした時、アルマの左腕が包帯巻きだったことを思い出す一同。ライムはアルマに手渡したブリンナを手に取って、慣れた手つきで代わりに皮をむき始めた。
「ところで、みんなは皮むき派と皮ごと派、どっち?」
「皮ごとだろ!」
「皮はむきますわ」
「皮むき派」
「皮がもったいないから皮ごと食べる」
2対2。どっちも良いところがあって、美味しいのだろう。しかし、4人の反対派閥を見る目が異様に鋭かった。まるで敵でも見るかのような睨み殺す視線だ。アルマは察した。この派閥争いに軽い気持ちで入ってはいけない。これはきのこたけのこ戦争に近しいものだと。そして、今から食べる皮むきブリンナの感想次第で戦争の火蓋が切って落とされるかもしれない、と。
皮をむき終え、黄緑色の果肉が露わとなったブリンナを渡される。アルマは腹をくくった。
ぱくっ
「……おいしい」
無意識に言葉が漏れる。舌へと訴えられた甘味にはどんな抵抗も無駄だった。
「あ、相棒の裏切り者!」
「負け犬陣営がうるせぇなァ」
「んだと!?」
剣を抜き、叩きつけるディーア。それを悠々と避けるスピナー。今は回復できないからとしぶしぶ仲裁に入るガーネット。何度も見た喧嘩だ。アルマもそろそろ見慣れていた。
「どっちでもおいしいのに」
喧嘩を眺めながら、ブリンナをかじるライム。それを見るアルマ。アルマは彼のことをほとんど知らない。距離を詰めるため、これを機に話を切り出した。
「そういえば、ライムの旅の目的は食べ歩きだっけ?」
「いやいやいやいやそれは半分だよ」
笑いながら手をブンブンして否定する。
「ボクの目的はみんなを守ること。みんなが夢を叶えることがボクの目的ともいえるね」
「?」
「何て言うんだろう……。えっと、目的のためにひたすら頑張る人って凄いじゃん? ディーアもスピナーもガーネットも、もちろんキミも。だからね、そういう人たちが夢を叶えられるように色んな困難から守ってあげたい。そう思ったんだ」
自身の大盾に触れるライム。
「この盾はそのためにあるんだ」
ただ食べるだけの人じゃない。しっかり芯の通った人。それがライム。アルマは彼の言葉に強く感銘を受けた。
「私の名前がない。ライムのいじわる」
「あ、先生……」
プラムは年甲斐もなく頬を膨らませていた。
「先生! 先生はブリンナの食べ方、皮ごとだよな!? 料理できないし皮むけないもんな!?」
「いや、さすがに皮ぐらいむけるだろ」
ガーネットに首根っこ掴まれて戻ってきた、皮ごと党党首のディーアと皮むき党党首のスピナー。二人は顔をそろえてプラム先生に迫る。
「んーっと、ジュースかな? 握りつぶして」
「……ゑ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます