Chapter 15  援軍到着

 噴き出す血液。同時に動きが止まるグリムフォード。その胸を剣が貫いていたのだ。

 口から血を吐き、悶えるグリムフォード。その背中から聞こえる声は聞いたことのある者のだった


「オマエの心臓はどこだか知らねーけど、とりあえずこの辺刺しときゃ致命傷だろ!」

「遅い。あと少しで俺に血が掛かるところだっただろ」

「うるせ!」


 遥か彼方へ吹き飛ばされたはずのディーア。彼がいつの間にか現れグリムフォードの背後から剣で刺したのだ。

 ディーアが剣を引き抜くと、傷口から大量の血が零れだし、地を赤く染めた。


「キサマ生きていたのか!?」

「あいにく身体の丈夫さには自信があるんでね」

「ク、クソがァァァァ!!」

 

 血をまき散らしながら吠えるグリムフォード。正気を失ったその目からは殺意しか感じられなかった。

 まだ暴れようとするグリムフォードを見て、アルマが閃く。


「スピナー、"ファイア"だ! 魔法が効かないのは皮膚だって言っていた。中には通るはずだ!」

「そういうことか!」


 構える二人。それに対し、巻き込まれないよう離れるディーア。去り際にグリムフォードの足を斬りつけ、動きを奪っていた。


「「"ファイア"!」」


 二つの火球が合わさり、グリムフォードを炎で包んだ。ドサリと地に倒れる身体。パチパチと燃え上がる火炎。その炎は傷口から確実に肉体を焼き尽くしていた。


 見守る三人。炎の勢いは緩やかに衰えていった。黒ずんだ身体を前にディーアが疑いをかける。


「さすがに死んだよな? もう爆発しねーよな?」

封魔セラードをかけてある。仮に生きていても力づくでねじ伏せられるから問題ない」

封魔セラード!? 今朝オレのこと実験台にしたあれか!」

「いい標的がなくてな。実験協力助かった」

「助かった、じゃねー! おかげで何時間も広場の真ん中で晒し首にさせられたわ」

「ザマアミロ」


 そもそもディーアって魔法使えたっけ。まだ見ていないだけで実は使えるんだろうか。アルマがそんなことを考えていると、横たわるグリムフォードの身体が不自然に跳ね上がった。

 グリムフォードに視線を落とす三人。奴は焦点の合わない目で不気味に呟き始めた。


「こンナ成果デは魔王様二顔向ケでキヌ……」


 突如輝き始める身体。続いて不自然な膨張を始めた。


「コイツ自爆する気か!?」

「まだ封魔の効果があるはずだ!」

「じゃあこれ何だよ!」

「チッ、急いでここを離れるぞ!」


 全速力で駆けだす三人。しかし、グリムフォードの輝きは起爆寸前だと本能で分かるほどの光度だった。

 急に後ろを向いて立ち止まるスピナー。ディーアがすぐさま声をかける。


「どうした!?」

「ここで止める。どう考えても間に合わんし、そもそも修道院が無事に残る保障がない」


 爆発の規模が分からない以上、村が消える可能性すらある。スピナーは地面に両手をつく。

 

土創造グランドクリエイション・ウォール!」


 地面から生える分厚い土壁が何重にも包み込む。その上で自分らの目の前にも、見上げるような土壁を幅何mにも渡って創り出した。

 力を使い果たし、そのままへたり込むスピナーを担ぐディーア。そして、いつの間にか傍にあった深さ数mもの穴に飛び込んだ。


「アルマ! オマエも飛び込め!」

 

 すぐに穴底に飛び降りるアルマ。そして三人は穴の中で姿勢を低くし、爆破に備えた。


 大地を引き裂き、全てを崩すような震動。耳を塞いでも鼓膜を貫く爆発音。三人は目をつぶり頭を抱え、穴の底でずっと伏せていた。

 揺れが収まり、ゆっくり穴から顔を出す三人。そこに見えたのは巨大なクレーター。大小様々な瓦礫やかろうじて形を保っていた家々は全て消し飛び、広場は元の形すら分からない惨状だった。スピナーが作った壁は跡形もなくなっていたが、修道院方向の家々は無事に残っていた。

 

「とりあえず修道院は無事か」

「あのヤローはどうなった!?」


 クレーターの中心に目を凝らすが、人影は見当たらなかった。落ちていたのは、明らかに人間のものではない、黒い足首だけだった。

 ヤツは死んだ。その事実に安堵しつつ、穴から這い出て、服についた土を払い落とす三人。

 その時、爆心地は逆方向、修道院へと続く道に、立っている人影に気づいた。


「誰だ……?」


 目を細めて凝視する。その男は直立不動で三人をじっと見つめていた。黒髪とあご髭に幾多もの白が混ざり、いぶし銀とでも言うべき風貌。使い古された鎧にシェフが身に纏うような純白のコートが合わさったような独特な服装。そしてその頭部には片方が欠けた二対の角が生えていた。


「魔王軍じゃねーか!」


 すぐさま剣を抜き、拳を握り、魔法を構える。その男は一歩一歩ゆっくりと近づきながら、語りかける。


「驚いた。あのグリムフォードが貴殿らのような若者に倒されるとは」


 その言葉には耳も貸さず、小声で作戦を立てる三人。


「どうする?」

「先手必勝。俺とディーアで一撃入れたところに、アルマが"ギガファイア"で燃やせ。まだ撃てるか?」

「大丈夫、いける」


 お互い目配せして、強く頷く三人。徐々に近づいてくる男。その火蓋は一瞬の後に切って落とされた。


「いくぞ!」


 全速力で駆けるディーアとスピナー。アルマはその場で"ギガファイア"を唱えていた。いつも通り、魔法を唱えた際に指輪は光を放つ。その光を見た男は突然、目の色を変えた。


「貴殿がそうか!」


 一瞬にして姿を消す男。目に映った時には、ディーアとスピナーの顔面を片腕ずつ鷲掴みにし、地面に叩きつけていた。アルマによって発射されたギガファイア。男はその火球の下をスライディングで潜り抜け、一直線にアルマに迫る。アルマの前で急停止する男。すると突然、アルマの左手首を掴み、自身の目の前に持ってきて、指輪を喰い付くように見入った。

 満足したのか、男はアルマを二人の傍へ無造作に投げ捨てた。すぐさま身体を起こすアルマ。地面に伏せる二人に気がつくと、即座に身体を揺すって生死を確認した。

 目を覚ます二人。ゆっくりと上半身を起こし、地面に尻を付けて座り込んだ。

苦い顔をするスピナー。その口からこぼれ出る。


「全然見えなかった……」


 ディーアは顔を上げ、その男に喰ってかかった。


「何モンだオマエ?」


 その問いにはっと気づいたような顔をする男。軽く頭を下げると、丁寧に応じた。


「名乗るのが遅れて申し訳ない。俺は魔王軍所属、クロニス。魔王様の命にて参上した」

「チッ、魔王はもう知ってんのかよ。あのヤギヤローの敵でも取りに来たか?」

「いや、用があったのはグリムフォードの方だった。まさか彼が倒されているとは。素直に賞賛しよう」

「敵に褒められても気色わりーだけだ。で、ならオレらには用ねーのか?」

「そうだな。失礼ながら貴殿には用はない。用があるのは――」


 真っすぐ指をさすクロニス。


「そこの指輪の勇者だ」

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