雷雷すっぽん
結丸
第1話
ある日、友達からラインがきた。
『ヤバイ』
『すっぽんに噛まれた』
その二言とともに写真が送られてきた。
すっぽんのどアップ写真。画面の端に映った甲羅、そこから伸びるツルツルとした頭。そして細長い口が、人間の手のひらを吸い込むように噛んでいる。
アップで見ると、亀との顔の違いがよく分かる。ていうか怖い。夢に出たらどうしてくれる。
とりあえず返信を返した。
「痛そうだな」
『マジで痛い』
『めちゃくちゃピンポイントにつねられてる』
痛いヤバいと言いながら、ぽんぽんとラインを返してくるあたり、まだ余裕がありそうだ。
『離さないんだけど』
『このあとゲーセンに行くのに』
『UFOキャッチャーするとき絶対邪魔になる』
「ゲーセン諦めなよ」
この友人、すっぽんを付けてゲーセンに行く気なのだろうか。
そんなことをしたら、写真を撮られてSNSに曝されるに決まっている。
「そもそも、なんでそんなことに」
『ねーちゃん家にいた。近づいたら噛まれた』
お姉さん、なかなか変わった趣味をお持ちだ。
「雷の音で離れるって聞いたことあるけど」
『快晴じゃん』
『終わった』
本日の天気は晴れ。午後までいい天気が続く予報だ。
『なんとかして雷音出せないかな』
『でんでん太鼓ならあるけど』
「なんであるの」
『ねーちゃんに赤ちゃん生まれたから』
そこでラインが一旦止まった。
今ごろ友人は、でんでんででん、と音を鳴らしているのだろうか。
そして1分後。
『ダメだった』
赤ん坊を泣き止ませるでんでん太鼓も、すっぽんには効かなかったらしい。
『天気調べた 関東は夜雷の恐れありだって 新幹線乗って行こうかな』
すっぽんをお供に関東へ旅立とうとしている友人。
「おちつけ」と打とうとして、ふとあることに気づく。
「スマホで雷の音声探したら?」
『あ』
灯台下暗し、とはこのことだ。
それから3分後。
友人からVサインをした手のアップが送られてきた。
手の下の方には、すっぽんの噛み跡がくっきりと残っていた。
雷雷すっぽん 結丸 @rakake
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