初恋
浬由有 杳
お題:「はなさないで」
久々に行った高校の同窓会。
「今、課長だって?」
「社長令嬢に告られたって?」
「出世街道まっしぐらだな」
「まあな」
何とでも言え。
全て実力で勝ち取ったものだ。
「珍しい人、連れてきた」
振り向くと、悪友が得意げな笑みを浮かべていた。
「久しぶり」
一瞬、時が止まった。
そこに彼女が立っていた。
忘れもしない、初恋の人が。
変わっていない、と思った。
ぱっちりとした瞳も愛らしい唇も。
華奢な体躯は、小柄ながらも均整の取れた女性のものに変わっていたが。
厳しい校則で有名な進学校。
当時は、交際どころか、男女が手を繋ぐことさえ難しかった。
彼氏としてできることと言えば、登下校を共にすることくらい。
無口な彼に、彼女は熱い視線で応えてくれた。
彼女の転校で突然終わった甘い関係。
担任は、家の都合だと、一切何も教えてくれなかった。
彼の唯一の青春の思い出。
皆、気を利かせてくれたのか。
いつの間にか二人きりになっていた。
「言いたいことがあるの」
彼女が言った。
赤く潤んだ瞳、甘えるような鼻声で。
「二度と
ハンカチで顔を覆って走り去る後ろ姿を、彼は呆然と見つめた。
再び見出した時、彼女はいかにも軟弱そうな男に肩を抱かれていた。
あの頃、彼女に付き
助けなければ。
今度こそ彼女を手に入れるのだ。
男の手を振り払い、彼は彼女をぐっと抱き寄せた。
彼女が大きく目を見開く。
次の瞬間、悲鳴がホールに響き渡った。
「やり過ぎだぞ。投げ飛ばすなんて」
「言いましたよ、私。二度と話さないで、私のこと、彼女、なんて。もう、かまわないでって。なのに、あのストーカー野郎!初恋の彼とうまくいくところだったのに」
花粉症のせいで涙と鼻水で濡れたハンカチを握りしめ、彼女は叫んだ。
「訴えられなくて幸いだったな」
始末書を書く若い同僚に、老刑事は笑って言った。
初恋 浬由有 杳 @HarukaRiyu
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