おねえちゃんのばんだよ

毘沙門河原ミシシッピ麗子

プロローグ

乗車人員世界第五位、渋谷駅

一日に約29万人の人間が利用している、老若男女が行き交う世界でも有名な駅。


東京、新宿駅と同様蟻の巣のように複雑に入り組んでおり、地下飲食店、お土産屋、ポップアップ店等もあり地上に出ずとも事足りる程サービスは充実している。


たくさんの人が待ち合わせをし、目的地に向かい、帰宅の為に渋谷駅を利用している。


理央も渋谷と言う駅の中を交差する人間の一人、去年新潟から大学の為に上京してきた。

一年間は大学生活に慣れる事に必死だった、友達も少しずつ出来てき、休日は年頃の女の子らしく渋谷や新宿に買い物に出かける。実家はそこまで裕福ではなかったがある程度満足に生活できるくらいの仕送りはしてくれた。

渋谷近くの池尻大橋の比較的安いアパート(とは言ってもオートロック、ユニットバスは多少不便さを感じたが)はもうすっかり自分のお城のようにくつろげる場所になっていた。

一人暮らしを初めて経験する理央にとって見るもの全てが新鮮だった。


ようやく雑多な駅の雰囲気にも慣れ親しみすら覚え始めてきた初夏、友達と待ち合わせをする為、駅前のスターバックス前で一人佇んでいた。


何度か旅行がてら友達と渋谷に来てはいたものの、実際に住んで利用するとなると大分最初は戸惑ったものだ。

自分が住んでいた新潟のスピード感が全然違う、数か月前にあったものが忽然となくなっていたりかと言えばいつの間にか大きなビルが建っていたりする。


(遅いな、16時って言ったのに…)


iPhoneの画面の時計は20分を過ぎていた。一言くらい言えばいいのに…

ため息をつくとSNSの画面を開き上へ指でスライドする。

ふとタイル状の歩道の向こう側に最近見ないような真っ赤な靴が目に入る。

まっすぐと理央の正面に二つ行儀よく並ぶ靴、自分に声を掛けようとしない限り、このつま先の並びにはならないだろう。


(小さい女の子の…靴…?)


いやに光って見えるその靴の持ち主を見ようとした刹那、急に横からバタバタと友達の騒がしい声と謝罪の文言が理央の耳を劈く。


理央「もー一言くらい言ってくれればいいのに」

優菜「ごめんごめん、カレとちょっと揉めちゃって…お詫びするからさ!」


友達の優菜が雑踏で会話が届かない事がないようわざと大きな声で話す。

ふとさっきの光景が思い出され前を向く、正面に並んでいた赤い二つのつま先はいつの間にかいなくなっていた。


優菜「あっちに何かあるの?買い物いこ」

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