知らない人達と異空間に閉じ込められた
猫野 ジム
第1話 異空間から脱出しろ
見渡す限り真っ白な空間。すでに方向感覚など無い。広さも計り知れない。無限に続く空間だ。俺は今、ここに居る。
だけど1人ではない。俺を含めて全部で12人。ただし全員知らない人だ。
おそらく20代から60代までの幅広い年齢層の男女だ。俺は35歳だからちょうど中間といったところか。
この場に居る全員がワケも分からずキョロキョロしている。いきなりこんな空間に飛ばされたのだから、無理もないだろう。
『ようこそ、皆様。本日はお越し下さりありがとうございます』
突然、どこからともなく声が聞こえてきた。周りにはスピーカーなんて見当たらない。
ただ、ボイスチェンジャーを使っているのか不気味なくらい低い声で、感情というものが全く感じられなかった。
感情の無い声はこんなにも恐ろしいものなのか。丁寧語であることも不気味さが増している要因であろう。
「おい、答えろ。ここはどこだ」
ガラの悪い男が誰に向けるでもなく高圧的な態度で質問をした。
『今ここにいる皆様は選ばれた人達です。選ばれしクズです』
男の声は謎の声の主に届いていないのか、無視しているのか、返答は無い。
「クズだと!?」
その言葉にはガラの悪い男をはじめ、全員が反応した。
(クズ……か。違いない)
俺は多額の借金をしている。生活に困ったとか家族の治療費が必要などといった理由ではない。完全なる私利私欲。
多数の友人や親戚からも借りているが、俺は夜逃げ同然で遠く離れた土地へとやってきた。
そんな時、自らを神と名乗る人物が俺の前に現れこう告げた。
「お前は選ばれた。願いを何でも1つ叶えてやろう。ただし条件がある。命をかける勇気はあるか?」
俺はあると答えた。そして気が付けばここに居た。というのが経緯だ。
『この事についてのルールはただ1つ。これを見てください』
謎の声が話し終わると同時に大きなモニターが現れたが、スタンドが無く画面だけが宙に浮いている。画面には、
【はなさないで】
ただ6文字。それだけが書かれている。そしてまた謎の声が聞こえてきた。
『最初にここから脱出した1人の願いを何でも叶えてあげましょう。ただし命の保証はしません。さあ、始めましょうか』
間髪入れずにブザーが鳴り響いた。これがスタートの合図なのだろう。
「待て! ふざけんな! 命なんてかけてられるか! 大体お前は何様——」
ガラの悪い男がその言葉を言い終えることは無かった。なぜなら、男の姿が一瞬で消えたからだ。
その直後、男の悲鳴が聞こえてきた。この場の全員が言葉を失ったかのように静まり返っている。
言葉を失う……。そうか、男が消えた理由が分かった。男は言葉を「話した」のだ。
俺達に示された唯一のルール、【はなさないで】。これは平仮名で書かれていることに意味があるのだろう。
俺がそんなことを考えていると目の前が暗転し、気が付くと個室の中だった。俺の他には誰もいない。
こうなるともう超常の力が働いていることを認めるしかなかった。
個室の広さは四畳半。壁も床も天井もコンクリートで窓もドアも無い。無機質な部屋。そこに机と椅子がある。学校に置いてあるようなものだ。
そしてここにもモニターがある。大きさは32型だろうか。やはり画面だけが宙に浮いている。
『これからクズ共には簡単なテストを受けてもらいます』
机の上には紙とペンが置かれている。正に学校のテストと同じだ。俺は椅子に座りペンを握って指示を待つ。
『それでは始めてください』
問題を見ると、小学校低学年で習うようなことばかりだ。こんなの誰だって満点を取れる。
俺が全問解き終わり見直していた頃、いくつかの悲鳴が鳴り響いた。
(何があった!? これまでのことを考えると、誰かが「はなした」ということか? でも一体何を……)
考えた末俺はペンを持つ右手に、より一層の力を込めた。導き出した結論は、全問解き終わり「手からペンを放した」のではないかということだった。
俺はテストの時間を見直しなどで最後まで使い切るタイプだということが功を奏した。
『おや? 何人か脱落しましたね。問題が簡単過ぎたようです。次は難易度を上げてみましょうか』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます