Mr.ブラックさん 〜新人ギルド職員ちゃんは人外達に庇護されるようです〜
猫そぼろ
第1話 ルルとMr.ブラックさん
「ルルー、この書類記入漏れがあるよー」
「あ、はーい! す、直ぐに直しまーす!」
私の名前はルル・ルーデン。
今年、王立高等学院を卒業して冒険者ギルドに就職したばかりの18歳。
まだまだ覚える事が多すぎて毎日てんやわんやに過ごしているの。
冒険者ギルドの花形業務はやはり受付嬢であり、見目麗しい女性職員が日々、冒険者のサポートをしている。
そして私はそんなギルドの中で雑務をやっている。
ギルドには毎日毎日、様々な依頼が持ち込まれ、それを冒険者が受けていく。
依頼主から成功報酬を預かったり、それを冒険者に支払ったり。
手数料の計算や経費の計算、税金関連もそうだし、住民からのクレームなんかもやってくる。 そりゃあもうしょっちゅう来る。
そんな私が、日々忙しなく働いているとギルド支部長のジョブズさんから呼び出しがかかる。
あぁ、なんだろぅ…… 何かやっちゃったこな? アレかなぁ…… 支部長の髪代を経費で落とさなかったからかなぁ……
はぁ、胃が痛いよぉ…… 身体を壊したお父さんの代わりに弟達を養わないといけないから絶対クビになんてなれないのになぁ……
私は意を決して支部長のドアのノックすると、中から渋い声で短く『入れ』とだけ返ってくる。
「し、失礼します! すいません、ヅラは経費じゃ落ちないんですぅ!」
「…………な、何の話だ…… オホンッ、ちょっと何の話かわからないが…… そっかぁ、領収書そこに紛れてたかぁ……」
はわわっ!? なんか支部長が遠い目をしちゃってる……
「ま、まぁルル君。 君にはこの住所にいって其処に住んでいる者に私からの指名依頼だとこの書類を渡してきてもらいたいのだ」
ジョブズ支部長はそう言って依頼内容の記載された書類と住所の書いてあるメモを手渡してくる。
「は、はぁ。 それだけですか?」
「それだけ、とは?」
「あっ、その…… ヅラの事とか……」
「早く行ってこい!!」
「ひいぃ!? はーい!」
なんか怒ってるぅ! やっぱりヅラの事怒ってるぅ……
☆★☆★☆★☆★
「えぇっと…… たしかここら辺の住所のはずだけど……」
メモに記された住所の辺りに着くと小さな酒場があった。
時間は午後5時を少し過ぎた頃、今日はこの書類を渡したら直帰でいいと言うのでラッキーだとウキウキしていたけど、何のことはない、普通に定時を過ぎている。
薄々気付いていたけど、冒険者ギルドってブラックな職場だよなぁ
酒場の中を覗いてみると、開店したばかりだからかお客さんはいないみたいだ。
「あ、あの〜。 すいませ〜ん!」
「いらっしゃいませ! お好きなお席にお座り下さい!」
15、6歳ぐらいの女の子が元気に案内をしてくれる。
「あっ、すいません…… えっと、人を探してまして…… こちらにジェット・ブラックさんていますか?」
「あージェットのお客さん? それならこの建物の2階ですよ。 外階段から上がれますから」
「ありがとうございます!」
一度、酒場の外に出て見るとたしかに建物の横に2階へと通じる階段があった。
階段を上り2階部分へと着くとこのフロアは一戸の住宅の様だ。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
社員募集! ホワイトな職場です! 未経験者歓迎! 有給あり! 残業なし!
求めてる人材 子供が好き お世話好き 働くのが好き 人が嫌がる事を積極的にできる人
求めていない人材 すぐ訴訟する人 すぐお金の話しする人 すぐ休みたがる人 すぐ帰りたがる人 出来ないって言う人
給与 要相談 休日 要相談
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
入り口らしき扉に全く募集する気がない求人募集が貼られていてちょっと……いや、結構不安になってくる。
絶対変な人が住んでる!!
「す、すいませ〜ん!!」
「…………はーい」
「………………」
意を決して声をかけると、少ししてから返事が返って来たので待ってみたが一向に人の気配がしない。
「すいませ〜ん!!」
「…………はーい」
「…………す・い・ま・せ〜んっ!!」
また遠くから声が聞こえるだけで人の気配がしないからもっと大声で呼んでみたら、家の奥からダッダッダッと足音が響いてくる。
「うるせぇ! ちょっとぐらい待っとけよ、コッチは忙しいんだよ!」
「ひいぃ!? ご、ごめんなさ〜い!」
「で、何の用よ?」
ドアを開けて出て来たのはここら辺では珍しい黒髪をした男の人だった。
「あ、あのぅ……ギルドからの使いでして。 ジョブズ支部長がコレをって」
「間に合ってます」
支部長に渡された書類を渡そうとしたらガシャン!って閉められた!
「あっ! ちょっ、ちょっと待って下さい! そんな新聞断るみたいに断らないで下さい!」
「やだよ、今いいとこ…… 忙しいんだよ」
ヤバいぃ!? ここで帰されたらこんなお使いも出来ない使えない奴だって思われちゃう!! そしたら最悪、解雇も……
「あーん、お願いします〜! コレとりあえず受け取るだけ受け取って下さい〜!」
私がドンドンとドアを叩いてお願いしているとガンッと階下から突き上げる様な音がする。
すると、ドアがゆっくり開いて先程の男の人が青い顔をして手招きをしている。
「オイ、下の女将が怖いんだよ、あんまり騒ぐんじゃねー、とりあえず中に入れ」
良かった、とりあえず書類は渡せそうね。
中に入ると客間なのか広めの部屋にソファとテーブルが置いてあり、ソファにはまだ10代前半に見える女の子が座って読書をしている。
あっ、たしかに壁は白い…… ホワイトな職場って絶対こんな意味じゃない!
「失礼します…… あのぅここはなんの会社なんですか?」
「会社? いや家だけど?」
「えっ!? いや、玄関に求人の貼り紙が……」
「あーあれね、家事とかさ色々やってくれる人いないかなぁって」
「それって家政婦なのでは?」
「社員って言った方がまともな職場に見えるじゃん?」
「あぁ…… まぁ……あれでは誰もこないと思いますが。 ところでコレをお受け取り下さい。 なんでも支部長からの指名依頼だそうです」
私はこのまともじゃ無い人に何を言っても無理だな、と諦めて書類を渡そうとすると、男の人はいつの間にか床に寝転がり何やら本を読み始めている。 私の両目とも2.0の視力が間違いでなければあれは、マンガを読んでいる。
来客が、しかも初めて来訪する人の前で寝転がってマンガを読み始めるなんて……
「あ、あの! さっき忙しいって言ってましたけど、本読んでていいんですか?」
「見りゃわかんだろ? マンガ読んでて忙しいんだよ。 それより依頼かぁ…… 面倒くさいなぁ、ユピー残金てあとどれくらいある?」
凄く、すごーく人間的にダメな感じを醸し出している男の人が女の子に残金を聞いている。
残金てなんだ? 預金残高? それとも手持ちの金銭なのかな? でもそれをあんな若い子に管理させてるなんて、やっぱりダメ人間だこの人。
「ん…………1408マニー」
「ふーん、まだそんなにあるなら…………えっ? いくらだって?」
「1408マニー」
「
「まぢ」
1408マニーって…… 最近の景気上昇を鑑みるにそこいらの子供でも、もうちょっと持ってるかも知れない金額ですけど大丈夫かしら? なぜか女の子はピースサインしてるけど……
そこからのこの男性の行動は早かった。
まず、放っておいた私をソファに座らせ、お茶をだす。 しかも茶菓子まで付けて。
「あ、先程はすいませんでした。 それで指名依頼の件ですが! 謹んでお受けしたいと思います……あっ一応内容だけ拝見しても?」
急に卑屈な笑みを浮かべて揉み手をしはじめたのは正直引いたけど、これで私の仕事は完了のようだ。
「こちらの書類になります」
「う〜ん討伐で6000かぁ…… ちょっと安くない? あぁいえいえ勿論やらせて頂くんですけどね」
「6000!? いや〜流石に誤表記じゃないですかね。 ちょっと見せて頂いても?」
討伐依頼で6000マニーなんて聞いた事が無い。 それぐらいならば常在依頼のゴブリンやワイルドボアを狩っている方がよっぽど儲かりそうだ。
しかも支部長直々の指名依頼…… 正直こんなダメ人間っぽい人が高ランクの冒険者とはとても思えないけれど、それでも指名依頼ともなれば普通なら桁が2つは違うだろうし。
渡された書類に目を通す…………
「…………6000万!? 誤表記だろ!?」
「でしょ? せめて8000だよね?」
いやいやいやいや、内容は!?
なになに…… 王都より東にあるウォルネスに向かい、その街外れにある古城。 そこに魔物が住み着いた為、ウォルネスの住民の不安を解消するためにも早期の討伐を。
あれ? なんだろう? なんか見た事ある気がする……
それにしても討伐でこの高額報酬と言う事は相当に強力な魔物のはず……魔物の詳細が何も書かれてないけど、何の魔物かわからないのに高額って事は何度も失敗している?
そこまで考えて、ふと思い出した。 今まで何度も依頼に出され、一度も達成されていない依頼……
内容はちょっと違うけど似た案件を見た記憶がある。
たしか場所はウォルネスにある古城…… ただ最後に見た時でゴールドランクの2パーティが合同で受注し、失敗。 結果、錯乱状態の帰還者が1人だけだった依頼。
それ依頼難易度Sランクで
私が最後に見た依頼書には大量の
私は怖がりだからそんな所、いくらお金を積まれても行きたく無いなって身震いしたっけ。
失敗する毎に報酬が上乗せされ最終的にその額、1億2000万……だったはず。 宝くじみたいだなって思った記憶がある。
──あれ? もしかして大分ちょろまかされてないこの人?
「あ、あの…… やっぱり間違いかも知れないので一旦持ち帰って確認しますね」
「いーや、やります! ヤらせてください! お願いします!」
「いやいや、だって危険ですよ!?」
「いやいや、だってお金ないですもん!!」
絶対に危ない案件だけど、どうしよう!?
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