かたわれさがし

桜餅

第1話

 軽自動車1台分程の幅しかない竹に囲まれた道をどれほど進んだだろうか。薄暗く先の見えなかった道が突然視界がひらけ、村が現れた。目線の先には少なくとも70家程あるだろうか。かつての人々が切り開いたであろう平地部と、緩やかな山の斜面に日本家屋が多く軒を連ねている。


 空には2つの雲が寄り添いながら漂っている。竹やぶにぐるりと囲まれたその村は檻で隔離された場所のように感じた。


 ここからはまだ人の姿は見えない。敏行の話が本当なら、この先で出会う人は皆――――。そう考えていると、背中に冷たい汗が流れるのを感じた。

 

 私は少し幅に余裕のある道の左側に車を止め、村の中へは徒歩で向かうことにした。車がよく通るからだろう、草が生えていない二本の道が村の中央へ続いているが、お世辞にも道が整備されているとは言えなかった。


 村の入り口から少し進んだところから、道路を挟んで両脇に民家が並んでいる。村人の姿はまだ見えないが、時計が既に昼の12時を指していることと、殆どの民家の煙突から煙がのぼっていることから考えると、外に人がいない理由は容易に想像できる。


 そして、山の中はやはり冷える。今週は猛烈な寒気がやってくるとニュースで言っていたことをふと思い出した。私はコートの襟に首をうずめながら、私の友人であり、この村の新たな村長である敏行の家へ向かった。

 

 この村の平地部はかつての平安京のように碁盤の目状に家屋が並んでいる。そのため敏行の家へ迷うことは無かった。


 敏行の家がある通りに入ると、電柱のそばで、背が高く、灰色のコートを着て煙草を吸っている人物がゆっくりとこちらを向いた。敏行だった。私に気づいた敏行は携帯灰皿を取り出して煙草の火をもみ消した。


「やぁ敏行。久しいね」


「よう裕貴。実際に会うのは大学卒業してからだから、6年ぶりだな。………まぁ、とりあえず内に入れよ。――――誰が何処で見ているかわからない。話は中にはいってからだ」


 敏行はそういうと、周りを確認してから私を早速家に上げた。










桜餅です!こちらは週Ⅰペースで投稿していきます!

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