第10話
「ナタキ迷宮は元々この場所を守る戦力を増やすために造った人工の地下迷宮なんだ」
試験に向かう道すがらアルテにナタキ迷宮の説明をしてもらっていた。
『戦力を増やすため?』
「そうだよ。バルリアの地下に作られたそれは、この地に流れる龍脈と呼ばれる世界中を駆け巡る膨大な魔力の流れを利用して、永続的にゴーレムやキメラといった魔術生物を作り、管理しておくだけの場所とする予定だったんだよ。
だけど、ここの領主が魔獣との戦闘訓練に丁度いいって言い出したんだ。魔術生物を有事の際は戦闘要員、平時の際は訓練相手って具合にね。
それを聞いたドワーフが、冒険者の訓練及び腕試しにも丁度良いって地下迷宮にしてさ。
そこで更にエルフが、龍脈を利用している場所だから貴重な鉱石や結晶が取れる上に所々魔力のたまり場があるから、そこは貴重な薬草が栽培できると。まあ皆でこれでもかって位に悪乗りして作ったのが、この迷宮だよ」
国が絡んでるのにノリで造ったのには驚いた。それに、悪乗りした分の費用はどこから出たのか甚だしく気になる。
俺の考えが伝わったわけではないがアルテは軽く説明をし始めた。
「だけどそれが出来たのは凝り性のドワーフとプライドの高いエルフの気性が関係している事があるけど、領主が優秀なうえに竜とのハーフだったのが一番大きいね。彼はその優秀さと、竜として世界の調律の役目の為にきたんだよ。
それがエルフとドワーフがバルキアを造る条件の一つで、竜族が選んだ者がバルキアの管理者となることだったんだ。
竜族はどの種族に対しても中立からね。人間と違い他種族からの信頼は厚いよ。
だから迷宮で採れた資源は格安で優先的に貿易を行うという約束を信じて、エルフとドワーフは先行投資をしてくれたんだ」
力のある中立の国を通した約束は地球の条約でも普通にやっていることだけど、自国の、しかも国防の要となる領土の自治権を他国の人間に与えるなんて凄まじいな。
少し違うがまるで母国と某大国みたいだ。若干それより酷いけど。効率化というか最小限で最高に近い防衛してるけど、母国の方がサイバー攻撃や情報戦等、全部含めたら国防に関してはヤバいか。
それにしても竜族に対しての信頼はすごいな。
「さて、ナタキ迷宮の内容に戻すね。魔術生物は領主の指示には絶対服従だから普通の迷宮よりかなり安全に探索出来るし、ここを作るのに協力したから領主がドワーフとエルフは特権として格安で資源を渡す事にしたから、かなり有意義な場所になったよ。
まあ人間の王侯貴族連中にはあまり面白くない場所になったけどね」
『そうなんだ。ところで王都とかにもある試験に使っているダンジョンもエルフ達に協力して作ってもらったモノなのか?』
「違うよ。王都で使っているのは魔王の快刀だった魔族が昔に造った塔のダンジョンなんだ。今は魔族から支配権を奪って、冒険者ギルドがダンジョンの支配者になってる。
それと私が支配している領域と人間の国との境にある城塞都市で使っている城型のダンジョンは、200年前に異世界から召喚された人が造ったんだ」
『召喚された人がダンジョンを造った?いや、それより召喚は禁術なんだろ?なんでこんなに禁術が使われているんだよ?』
話を聞いた限りじゃ、召喚された人間がダンジョンなんて造れるようなもんだとは思えないし、作る意味も分からない。
それにしても世界を歪める以前に誘拐や人を殺す事自体が犯罪なのに、なんでこんなに禁術の使用例が多いんだ。
「当時は魔族に王都近郊まで侵略されていたんだよ。その時に魔族を倒すために禁術を創ったんだ。まあ、当時は禁術なんて言われてなかったけどね。
禁術の種類なんだけど、一番の問題だった他種族の王を殺すために"勇者"を創るものと、王と渡り合える存在を異世界から召喚し使役、もしくは懐柔する者と、王を屠ることのできる魔法を創るものに分かれたんだ。
因みにどの禁術で魔王を倒したかというと、異世界から召喚された勇者だったよ。
そして君の知っている禁術の事例の半分以上がその時のものなんだ。
魔王を倒した後、竜を筆頭に他種族が魂を利用する魔術を残虐かつ世界を歪める為、禁術として資料をすべて廃棄し二度と使わない様に抗議したからね。流石に禁術をおおひらに使用できなくなったよ。
それだけではなく、資料も廃棄したから詳しく知る者もほとんど居なくなった。
でも、何時の世でも狂った奴らは居てね。禁術を密かに研究したり、切り札として所持する奴らがいたんだよ。
そのせいで禁術の使用例は減ったが、おかげで未だに禁術の完全な消失はできていない状態なんだ。
それに、他種族に抵抗する手段として人の王族も勇者召喚の禁術は後生大事に未だに持っているよ。まあ、使ったら複数の他種族と戦争になる危険があるから早々使えないけどね」
まるで核みたいな扱いだな。しかもとある北の国みたいな気がしてきたぞ。根底にあるのは魔族へのトラウマや、自衛の力がない事への恐怖が原因みたいだが。
「さて、歴史の授業は終わりだよ。気になることがあったらまた今度教えるね。
あれがナタキ迷宮だよ」
見えた先は大きく開けた場所で、中央付近の地面に大きな円錐状の穴が開いていた。穴の壁は全て階段になっていて下に続いており、穴の周りは結界用の魔法陣が描かれている様で淡く輝いている。そして東西南北と穴の周りに門が4つ造られており、そこから結界の中に入れるようになっていた。
「試験をやりに来た」
「ぬおう!いつの間に!」
アルテは強面で筋骨隆々の大男に向かって番号札を出すと大男はアルテにひどく驚いていた。
門番からしたら、見晴らしのいい場所で周りを見張っていたのに、いきなり目の前に目立つはずの全身真っ黒な不審な人物が現れれば驚くのも仕方がない。
門番はひとしきり驚いた後、札を受け取り人が集まっている場所に行くように指示を出してきた。
「こりゃ凄い新人が来たもんだ」
門番の独り言を聞きながら試験を待っている集団に向かっていった。
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