第5話
『...これは何ですか』
「見ての通り私の家だよ。かなり前に禁術の研究をしてた奴らが禁術を暴走させて、
まあ、そのままでは使う気にならなかったから弄り回してあるけど、見た目はあまり変わってないよ」
『そうですか。もしかしてアルテ...さんは今もここの王様や貴族みたいな立場ですか?』
アルテが家だと言っていたのは城だ。
見た目はシャンボール城やアルカサル城とは違い、ボディアム城に近い、と思う。少し城について調べたことがあったけど、良く分かんなかった。
城の手入れはきちんと行き届いており美しい。
記憶が流れ込んで来た時に、アルテがお姫様だとは知っていたが今もこんな生活をしているとは思っていなかった。
それに、高貴な人だと見せつけられると気後れしてしまうのは仕方ない筈だ。
「そうだね。でも気にしなくて良いよ。今は同じ体に居るんだから。
まあ、君が表に出ている状態で私を呼び捨てにしたら、みんなで殺そうとしてくるかも知れないけどね」
『気を付けます』
俺が気後れしていたことに気づいて、アルテは苦笑いをしながらフォローを入れてくれたようだけど、最後の一言で思わず怖気づいてしまった。
少し過去を見たせいで俺が慣れ慣れし過ぎたか?
だけど今まで若干の喜びの感情は感じても拒絶の感情が全くないし、公式の時だけ気をつければいいか。
「ここが私の部屋だよ。後で執務室に側近のエルトラを呼んで必要な装備を整えたら、魔族の支配域と人間の国の境に近いバルリアで冒険者にでもなろうか。
バルリアは二番目に大きな城塞都市なんだよ。そして冒険者になる際に実力のある者がE~Cランクまでの間から始められるように試験を行える、人間の国では3か所しかない都市の1つなんだ。
Bランクからはギルドからの信用も必要になるから、1年以下はどんなに実力があってもCランクのままだけどね。それでもCランクになればかなり自由に動くことができるし、魔獣が多いから殺す相手に困らないよ」
『分かった。でも冒険者になるのもバルリアに行くのも良いけど側近にはなんて説明するつもりなんだ?』
「ありのまま話すよ。彼には私がいない間ここを任せることになるし、きっと魂食いの彼は私の状態にある程度は気付いてしまうから」
『それって、俺は大丈夫?なんか処罰を下そうとして来たりしない?それよりもなんで吸血鬼より上位の魂食いが側近なんだ?』
「思っていたより小心者だね。大丈夫だから安心していいよ。
それと、種族的には彼の方が上だけど、実力は私の方が遥かに格上だから。
人間以外は王が世界に選ばれたから王だけど、皆が従うのは色々な理由はあれど根本的には圧倒的に強いからだよ。
私達は作られた存在だけど、いえ、作られた存在だからこそ強さが全て。ここに連れて来る時煩かった連中は全員を眷属にしたしね」
『...王なの?』
「みたいなものだね。まあ、皆好き勝手やっているから君が考えているような国や王では無いけど」
敬語を使わせて欲しい。それから、ここから逃げ出したい。...小心者ですが何か?
『何かすることはある?』
「特にないよ。君も私も表に出ない限り周りとは話せないから。このまま私が全て終わらせる」
『いや、挨拶くらいはした方が良くない?』
「まあ普通はそうだけど、彼にはしないで。しなくて良いじゃなくてしないで」
アルテの頑なな意思が伝わってきた。
何故なのか気になるけど教えてくれなさそうだな。
『わかった。でも出来れば、謝罪と挨拶は言ってたくらいは伝えてほしい』
「そのくらいなら良いよ。それでは執務室に行くからしばらく黙って見てて」
『分かった。後はよろしく』
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