第14話 可愛いエディット(※sideマクシム)

(……なんて可愛いんだ、エディット……)


 ベッドに滑り込み、白くか細い体をそっと後ろから抱き寄せ、腕の中に閉じ込める。するとさっきまで涙を零し震えていたエディットが、突然安心したように体の強張りを解くと、そのまま俺に身を委ねてすやすやと眠ってしまった。そのあまりのか弱さ、可愛らしさに、心臓が鷲掴みにされたようなときめきを覚える。たまらず叫び出したくなった。だがようやく落ち着いたエディットの眠りを邪魔するわけにはいかない。俺はエディット可愛さに内心悶絶しながらも、何度もその栗色の髪にキスを落とし黙って耐えていた。


 本当は灯りなど落としたくはなかった。ようやくこの手に得たエディットの全てを、隅々まで見て堪能したかった。けれど、ここに来た時からただでさえずっと怯えていたエディットだ。この俺の、デカい上に古傷だらけの体をまともに目にしてしまったらきっとますます震え上がると思ったのだ。だから我慢して部屋を暗くしたが、その中で白くぼんやりと浮かび上がるエディットの肢体に、俺はたまらなく興奮した。許しを得て触れつつも、決して乱暴にはすまいと自制しながら彼女と初めての愛を交わした。だが、俺が予想していた以上にエディットが苦しんでいるのが分かった。それは初めての痛みに耐えているだけというよりはもっと深刻なものに思え、まだまだ不完全燃焼だったが、数度の交わりの末、俺は自分の欲に鞭打ち名残惜しくも彼女の体から離れた。


(……まさか、知らなかったんだろうか……。夫婦の交わりがどういうものかを……)


 腕の中のエディットの寝息を聞きながら、俺はそう考えた。オーブリー子爵家では、結婚前にこれを教わらなかったのか……?貴族の令嬢たちの生活についてはよく知らんが、おそらく普通は母親か侍女か、もしくは教育係などから閨についてのそれなりの知識を与えられるものだろう。だがエディットはまるで何一つ知らないんじゃないかと思えるほどに、俺の動きの全てに怯え、最後まで慣れる気配もなかった。


「……。」


 結婚に至るまでのオーブリー子爵夫妻とのやり取りについて思いを巡らす。


 あの日、王宮での夜会からこのナヴァール辺境伯邸に戻るやいなや、俺は使者を通してオーブリー子爵邸にエディットとの結婚の申し入れをした。しかし、返ってきたのは断りの手紙だった。

 納得できない俺はそれから数度書簡を出し、直接訪問して結婚の許しを請いたい旨を伝えた。しかし夫婦は頑なに拒絶してきた。一か八か、俺は交換条件としてオーブリー子爵家への破格の支援金を申し出た。しばらくして届いた返事には、非常に悩むところだが、何分大切に育て上げてきた病弱な娘、なかなか思い切ることができません、というような内容のことが書かれていた。

 腹立たしさに俺は舌打ちした。何が大切に育て上げてきただ。では何故エディットはあんなにも荒れた手をして、あんなにも痩せていたのだと腹の中で毒づいた。クソ。おそらくはまだ支援金の額を吊り上げたいだけだろう。いいだろう。いくらでも出してやる。俺は奴らの望み通りさらに倍の金額を書いて再び書簡を送った。すると案の定子爵家からは、そこまで強く所望していただけるのであれば、さぞや娘も大切にしていただけることでしょう、喜んで差し上げますというような手のひらを返した内容の返事がすぐに届いたのだった。承諾に喜びが湧き上がったのと同時に、オーブリー子爵夫妻に対して呆れ返ったのだった。


 死んでいるのではないかと噂が立つほどに、これまで誰にも姿を見せなかったというエディット。長年、子爵邸で一体どんな暮らしをしていたのだろうか。

 以前から抱いていた疑問についてまた考えながら、エディットの温もりを感じつつ俺も束の間の眠りに落ちた。







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