登るか、山

 ハングリーロックリザードは見た目通り動きが遅い。

 ただし、力は強くその巨体から繰り出される体当たりは相当な威力を誇る。


 そして、なんと言っても優れているのは防御力。

 背中に背負う鉱物の山は頑丈で、並の魔法や武器を跳ね返してしまう。

 しかも頑張って背中を破壊したところで本体へのダメージはなく。

 地面を這うように動く、的の小さな肉体の部分を狙った攻撃でないと意味がない。


 総じて、C級に相応しい厄介な魔物と言えるだろう。


「ま、今さら敵じゃないよな」


「ふっふっふ! レヴィやメリーネでなくとも、このくらいならあたし1人でも余裕なのだ!」


 目の前には、ハングリーロックリザードが倒れ伏していた。

 倒したのはメアリだ。


 最初は俺がやろうとしたのだが、メアリが戦いたいというので任せてみれば、あっさりと討伐してみせた。

 メアリの実力を考えれば当然の結果だ。


 もともと身体能力が高かったり、俺たちと出会うまで1人で海に出ていたりしていたメアリは、実は1年前の時点でそれなりに戦えた。

 あのときは相手が相手だったから待機してたけど。

 本人曰く俺たちに追いつけるようにと約1年ほど鍛え直し、神器の習熟に務めたという実力は折紙付きである。


 学園に来てからもさらに伸びてるしな。

 同じ新入生であるイブと組み、他のパーティだったブレア先生も引き抜いた3人パーティで、順調にダンジョンを攻略しているみたいだ。


「ところで、必要なのは胃袋だったよな。誰か魔物の解体とかできるのだ?」


「いや、俺たちは解体とかできない。今まで魔物解体はそういう商売してる奴に任せてたんだ。今回も、こいつはそのまま持ち帰って依頼しようか」


 メアリにそう返事をして、俺は『影収納』の中にハングリーロックリザードの亡骸を収めた。


 でも、そろそろ誰かが魔物解体できるようになった方がいいかもな。

 実はダンジョン攻略のときに倒したのは魔物は、『影収納』にぶち込んだまま手をつけていないものがめちゃくちゃ多いのだ。

 『影収納』の中は腐敗などしないようになっているから後回しにし続けた結果なんだが、そろそろなんとかしたい気持ちがある。


 だけど、A級とかS級みたいな高位の魔物の解体を一般の人に任せるのもどうかと思うし。

 解体したところで、そんな素材をいったいどこで売り捌くことができるのかと疑問だし。

 ってなると、手をつけられないんだよなあ。


 せめて、解体だけでも自分たちで覚えて少しずつ進めていければと思うのだが。

 …………ネロに覚えてもらって、アンデッドに解体してもらうのがいいかな?

 数も数だし、人海戦術を使いたいところだ。


「ちなみに、ハングリーロックリザードの背中の鉱物はかなりの高値で売れるらしいぞ」


「そ、そうなんですか?」


「ああ。なんでも、ハングリーロックリザードの胃を通して再生成された鉱物は栄養を蓄えることで、元の何倍も品質が上がるらしい」


「ハングリーロックリザードから栄養を吸い取ってしまうのですね。なんだか、ちょっと怖いです」


「それが自然ってことなんだろ。だから、この山は良質な鉱物資源の宝庫だ。人の手で開拓できるような場所じゃないからほとんど意味ないけどな」


 視界内にちらほらと映る小山の数々。

 生きているか死んでいるかわからないが、おそらくあれらは1つ1つがハングリーロックリザードだ。


 ハングリーロックリザードが食べる鉱物には、当然ながら仲間の亡骸も含まれる。

 そうやって何度も何度も繰り返し、鉱物が魔物の栄養を吸って成長し続けることで品質が極限まで高まっていくのだ。


 だから、この山は宝の山。

 A級魔物を倒せて、この山をゆうゆうと散歩できるくらいに強いなら金稼ぎにもってこいだろう。

 まぁ、A級魔物を倒せるようなやつが金に困ってるとは思えないけど。


「宝の山……海賊として、とっても心踊る言葉なのだ!」


「少し持って帰るか?」


 『影収納』に入れればいいだけだから、いくらでも鉱物資源を持って帰ることができる。

 売り飛ばせば、一気に大金持ちだ。


 しかし、メアリは首を横に振った。


「い、いや、いいのだ。すごい大金が入ってきそうで怖いのだ。あたし、大金になれてないし…………」


 おい、それでいいのか海賊志望。

 青い顔をして怯えるメアリに俺は呆れてしまった。


 まぁ、メアリはこのままでいいか。

 目指している目標である黒髭は、歴史に名を残す英雄的な義賊だし。

 根っこが善良なメアリが金に溺れる姿とか想像つかない。というか、そんなんなったらなんか嫌だ。


「ご主人様、この後どうするの? 目的はもう達成しちゃったし、帰っちゃう?」


「ん、どうしようか。せっかく、ここまで来たのにこれだけですぐ帰るってのもな」


 スラミィの問いに俺は考える。

 わざわざやってきて、数分を目的を達成して蜻蛉返りなんてさすがにもったいない気がするんだよな。


「それなら、登ってみませんか?」


「登る? この山の頂上までってことか」


「そうです! 頂上まで登って、野営するんです! それで、みんなで朝日を見ましょう! これだけ大きな山ですから、きっと綺麗ですよっ!」


 メリーネの提案に、俺たちは顔を見合わせる。


「楽しそうなのだ、それ!」


「お姉ちゃん、すっごくいいアイデアだよ! なんだか冒険っぽくていいな〜!」


「りょ、料理はたくさん持ってきてますし。野営用の道具は、魔法鞄の中にだいたい入ってますよ! うへへ、楽しくなりそうです……!」


 みんな乗り気だな。

 俺もなかなか良い案だと思うから賛成だ。


「よし、決まりだな。登るか、山」

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