蒼輝剣ミストルテイン

「うう、ごめんなさいレヴィさま。不覚を取りました……」


「謝る必要はない。無事でよかった」


 ずうんとうなだれるメリーネを励ます。

 ルインコングを倒したあと、すぐにメリーネにエリクサーを使用して回復させた。


 スラミィの方はすでに起き上がっていたので、倒したルインコングを吸収するように指示を出す。

 これでルインコングを戦力として運用できるようになるわけだ。

 やはりフィロソフィーズスライムってめちゃくちゃな魔物だな。


「そ、それにしてもレヴィさんって、な、何者ですか!? も、もしかして、七竜伯だったり」


「七竜伯はもっと強い」


 ネロの言葉をすぐに否定する。

 七竜伯だったら、きっとルインコングなんて小指一本で倒せるような魔物だ。

 そもそも神器すらまだ持っていない俺が、そんな七竜伯と同じくらい強いなんて自惚れることはできない。


「わたし、もっと強くなります。このままじゃ、この先の探索で足を引っ張っちゃうと思いますから」


「ああ、メリーネなら強くなれる。まだ王都に戻らなきゃいけない時期まで時間はある。気長にやればいい」


 胸の前で両手をぐっと握るメリーネに、俺はそう言って励ます。


 俺が前世の記憶を取り戻した当時のメリーネは、魔物の等級にしてC級くらいの実力だった。

 それが数ヶ月という短期間でS級の中でも上位に位置している強さのルインコングと戦えるまで成長したのだ。

 このペースで成長していくなら、ゲームの物語が始まるまでにはダンジョンの完全攻略はできるだろう。


「レ、レヴィさん、宝箱ありますよ」


 ネロに言われて、気づく。

 ボスを倒した報酬なのか、さっきまではなかった宝箱が部屋の中に出現していた。


「けっこう、大きいですね?」


「そうだな。この大きさだと、武器か何かか?」


 今までも宝箱はいくつか見つけたが、出てきたのは指輪から始まりポーションなど。

 そのどれもが小さなものだった。

 それに合わせてか今までの宝箱はどれも小さく、これほど大きなものを見るのは初めてだった。


「た、楽しみですね」


「お、わかるクチだな。これこそダンジョンの楽しみの1つだ」


「うへへ。ダ、ダンジョン探索者はみんなこれが、大好きなんですよ」


「レヴィさま! 早く開けましょう!」


 3人で宝箱を囲む。

 俺もそうだが、2人もどうやら待ちきれない様子。もったいぶるつもりもない。

 俺は3人を代表して宝箱を開けた。


「わあ! 綺麗な剣ですっ!」


「す、すごそうな剣ですよ!」


 宝箱に入っていたものを見て、2人は歓声をあげる。

 それは剣だった。


 銀色の剣だが、質感は銀でも鉄でもない。

 不思議なもので、剣身が光を反射すると薄い青色に光る綺麗な剣だ。

 分類としては、ショートソード。ちょうどメリーネが使用している剣とサイズ感が似ている。


「この剣は、たしか」


 俺は宝箱から出てきた剣について心当たりがあった。

 それは、ゲームにおいて登場した武器の中にこれと同様のものがあったからだ。


「――蒼輝剣あおきけんミストルテイン」


 呟くと、メリーネが首をかしげる。


「レヴィさま、知ってるのですか?」


「ああ」


「レヴィさまって本当に物知りですよね。いったい、どこでそんな知識を身につけたのですか?」


「まあ、いろいろと……」


 前世とかゲームとか、そんなの説明できることではないので曖昧にごまかす。


「それよりもメリーネ、これはお宝だぞ」


 蒼輝剣あおきけんミストルテインは、ゲームでもダンジョンの宝箱から低確率で手に入れることのできた強力な武器だ。

 最強武器というわけではないが終盤でも十分に使える剣で、俺自身もよく世話になった武器の1つ。


「メリーネ、闘気を込めてみろ」


「わかりました!」


 メリーネにミストルテインを渡し、闘気を込めるように指示するとメリーネは言われた通りに剣に闘気を通す。


「わ、わあ! 光ってます!」


「な、なんですか、これ?」


 すると、メリーネの闘気に反応したミストルテインは青い光を放つ。

 光はあっという間に剣身をすべておおいつくした。


蒼輝剣あおきけんミストルテインは、持ち主の闘気を力に変換する剣だ。その状態だと斬れ味が増す」


「み、見た目ほど派手じゃないんですね」


 ネロが少しがっかりした様子で呟く。

 しかし、ミストルテインの真価は光って斬れ味が増すことじゃない。


「メリーネ。その状態のまま、剣を投げてみろ」


「な、投げるんですか!?」


「ああ、誰にも当てないようにな」


「わ、わかりました……!」


 メリーネはためらいながらも、俺の言うとおり剣を構える。

 剣を投げることに抵抗があるのか、メリーネはあまり本気ではなく腕だけの力で剣を軽く放り投げた。


 しかし、その結果に一同は驚愕する。


「け、剣が矢みたいに!」


 軽く放り投げられたミストルテイン。

 だが、どう考えても投げる力とは比較にもならない速度で、光の尾を引きながら矢のように飛んでいったのだ。

 光の矢と化したミストルテインはまっすぐに突き進み、やがてダンジョンの壁へと突き刺さる。


 そう、ミストルテインは投げることで強力な飛び道具となる剣なのだ。


 しかし、ミストルテインはこれだけじゃない。


「メリーネ、戻ってこいと念じてみろ」


「えーと、も、戻れっ! ――わわ! 本当に戻ってきますっ!」


 メリーネの声に反応したようにミストルテインが彼女の手元へと飛んできて、何事もなくその手の中に納まる。

 一連の流れを見たメリーネは、目をきらきらと輝かせた。


「すごいです! レヴィさま、この剣すごいですよっ!」


「ふっ、そうだろ?」


 単純に性能が良く、その上で斬れ味が上がる効果や遠距離攻撃を放つ効果まで付属する。

 俺もゲームではかなり世話になった剣だ。

 メリーネの気持ちはよくわかる。


「ネロ、この剣はメリーネに渡したいのだが良いか?」


「は、はい! もちろんです。ル、ルインコングを倒したのはレヴィさんですし、僕は剣なんて使えませんから」


「そうか、それじゃあ遠慮なくもらうぞ。というわけで、その剣はメリーネが使え」


 俺たちの話を聞いたメリーネが、驚いたように目を見開く。


「いいんですか!? こ、こんなにすごい剣を!」


「俺もネロも剣は使わない。仲間に剣士がいるのに、こんなに良い剣を売り払うのはもったいないだろ」


「レヴィさま……!」


 メリーネは嬉しそうな笑顔を見せる。


「その剣で、もっと強くなれよ」


「はいっ! もっともっと強くなって、レヴィさまの隣にいて恥ずかしくないような騎士になりますっ!」


 その後、スラミィがルインコングを吸収し終えたところで俺たちはダンジョンを出ることにした。

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