ルインコング
ルインコングはその見た目通りの純粋なパワーファイターだ。
巨体から繰り出される圧倒的なパワーとタフネスに加えて、スピードもS級魔物であるためかなりのものを持つ。
印象としてはバルクキャットを超強化したような魔物だな。
代わりに魔法などは使ってこないが、物理に特化した強さでも突き詰めれば下手に小細工してくる魔物よりも厄介というもの。
「うぐぅ、つ、強いです……!」
剣でルインコングの攻撃を受け止めながら、メリーネがうめく。
魔道具による制限はすでに取り払っている。
それでもパワーでは劣り、タフネスでは完敗、スピードは逆に勝っているがそれだけでは勝てない。
総合的に見ると、タイマンではメリーネがやや劣勢といったところだろうか。
それでもS級とほぼ互角に打ち合えるのだからメリーネは相当強い。
「オオオオオオオオ――!!」
「負け、ません、よっ!!」
メリーネが渾身の力でルインコングを弾き返し、バランスを崩した隙を見逃さず剣で斬りつける。
しかし、バッサリと斬られたはずのルインコングはまるでダメージなどないかのような様子で戦いを続ける。
さすがのタフネスだ。
メリーネはルインコングの攻撃を受ければ大ダメージは免れないだろう。
もしかしたら一撃で戦闘不能になるかもしれない。
それなのに、メリーネの攻撃はなんてことのないように耐えられるのだから不公平だ。
「スラミィ、メリーネを手伝ってこい」
「ルゥ!」
スラミィがルインコングへと突撃する。
グリフォンの姿をしたスラミィは、グリフォンの能力を十全に扱うことができる。
A級のグリフォンの力ではルインコングには及ばない。
しかし接近戦、空中戦、魔法戦を高水準で兼ね備えるグリフォンが補助してやれば、メリーネもだいぶ楽に立ち回れるようになるはずだ。
「スラミィ! 助かります!」
メリーネが正面からルインコングの相手をして、側面からスラミィが自由に動けないよう妨害をする。
これなら前衛は十分に持ち堪えてくれるだろう。
「ネロ、俺たちもやるぞ」
「は、はい! 僕も頑張ります!」
杖を持ったネロが、その先をルインコングに向けて死霊魔法を唱える。
「『ソウルタッチ』!」
一見すると、何も起こらなかったように見える。
しかし、その魔法の効果は如実に現れた。
ルインコングの動きが一瞬、止まったのだ。
「いい働きだ――『劫火槍』」
隙を見逃さず10本の炎の槍をルインコングへと放つ。
メリーネとスラミィが下がり、取り残されたルインコングへと炎の槍が殺到する。
放たれた炎の槍が1本、2本、3本と命中し、4本目が命中する直前に動き出してガードされた。
「ドラララララララララ――!!!!」
ルインコングが自身の胸を両手で激しく叩く。
すると、5本目以降の炎の槍がドラミングによって生じた衝撃波によって打ち消された。
「レヴィさまの劫火槍が消されちゃいました!?」
「さすがにS級は今までとは違うか」
まさかこんなふうに対処されるとは。
「だが、わざわざ消したということは危険を感じたんだろ。劫火槍ならば効くってことだ」
劫火槍は火属性の汎用魔法だが、それゆえにシンプルな術式構成をしており過重魔法による威力上昇の限界も高い。
かなりの魔力を注ぎ込んで威力をギリギリまで増幅させた俺の劫火槍は、単純な魔法でありながら必殺の威力を持つ。
なんたって、クリーンヒットすれば男爵級の魔族だって倒せる魔法だ。
そんな劫火槍を3発も受けたルインコングはかなりのダメージを負っている様子。
しかしそれでも、まだ倒れる気配がないあたり呆れたタフネスだな。
「ぼ、僕の魔法の効き目が悪かったです。も、もう少し、止められると思ってたんですけど」
「いや、こいつ相手にあれだけ隙が作れるなら心強いさ」
ソウルタッチは名前の通り魂に触れる死霊魔法らしい。
魂に触れることにより発生する不快感と痛みを与え、敵を苦しめることのできる妨害魔法。
これだけで敵を倒すことはできないが、敵に大きな隙を作り仲間をサポートするには有用な魔法だ。
「で、ですが強力な魔物は、何度も使っているうちに慣れて効きづらくなってしまいます。ご注意ください」
「ああ、わかった。それならソウルタッチはいざというときまで残しておこう」
「りょ、了解です!」
戦いは再び仕切り直しだ。
「行きます!」
「ルゥ!!」
さっきまでと同じようにメリーネとスラミィが接近戦を仕掛け、俺とネロは後ろから敵を狙う。
だが、さっきまでとは違って前衛の戦いはメリーネたちの方が優勢なようだ。
劫火槍を受けてダメージを負ったルインコングの動きが鈍っているのである。
しかしそれでも、依然として強力だ。
油断できる相手ではないので、メリーネは注意深く立ち回っている。
「『ゴーストバレット』」
ネロが魔法を放つと、青白い人魂のようなものが次々と現れてルインコングに撃ち込まれる。
威力はあまりなくルインコングにダメージは通っていないが、集中的に顔を狙っているのでかなり邪魔になってそうだ。
「『劫火槍』」
俺は前衛に誤射しないよう気をつけながら、劫火槍を放つ。
しかし俺の魔法をとにかく警戒しているようで劫火槍はすべて、他の攻撃を度外視でルインコングにガードされる。
だが、そのガードの隙を見逃さずメリーネが斬撃を命中させていくので劫火槍を放つ意味はあった。
少しずつ、ルインコングを追い詰めていく。
こうなってくれば、あとはもうこのまま続けていれば勝てるはず。
しかし、これで終わらないからこそS級。
「ドラララララララララ――!!!」
突如としてドラミングを始め、衝撃波を放つ。
メリーネとスラミィはすぐに後ろに下がって衝撃波を躱したが、それによってルインコングに立て直しをする時間を与えてしまう。
冷静だった瞳が、怒りを宿し赤く染まる。
ふいに、悪寒がした。
「レヴィさま、何か来そうです――!」
メリーネが叫ぶと同時、ルインコングの体毛が金色に変化していく。
バチバチと静電気のようなものを身にまとった金色のルインコングは、威圧するように吠えた。
「オオオオオオオオオオオオオ――ッ!!!!!」
さっきまでとは比べ物にならない重圧。
強敵の気配。
俺は直感した。ここからが本番だと――
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