第38話 おじさん、打ち合わせる

「行きましょう♡」


聖なる鷹セント・グリフィス騎士団』副団長キングくんが笑顔で告げる。

 それに異を唱えるのは『清らかな白鳩プラミチア女騎士団』副団長ジャンヌ。


「……え? でも魔物三十体ですよ? 私達八人ですよ? うち一人は荷物持ちさんですし、ここは引き返して報告したほうが~……」


「ジャンヌさん?」


「は、はひっ……」


「あなた、ワイバーンをカイザスに引き連れて来ましたよね? たまたまケント様がいらしゃったから事なきを得ましたけど、ここでこのまま引き返して汚名をそそげるとでも?」


「う……うぅ……わ、わかりました……。ちょっと覗いて無理そうだったら引き返して報告しましょう……」


「殲滅♡」


「うぇ……?」


「殲滅して、誰が何の目的でここに宝珠オーブを仕掛けたのかを判明させてから帰還。それが汚名返上したと言える最低ラインです♡」


「うぅ……わかりました……」


 引け腰気味のジャンヌを笑顔で言い負かすキングくん。


「三十体か……これを倒せば俺の恩赦も手に入ったも同然だな、へへっ」


「ですね♡」


 騎士団に拘束中の身のテンは乗り気。

 そもそもこいつ、目の前の報酬にすぐ目が眩むタイプらしいし。


「兄貴ぃ~、腕がなるねぇ~?」


「こら、ヤリス。ちゃんと計画を立ててからだ。ケント様、中の詳しい様子はわかりそうですか?」


 エルくんが尋ねてくる。


「俺が感じることができるのは、なんというか『雰囲気』とかそういういったボンヤリとしたもんだ。外れることだってある。それでよければだが……ヤバそうなのが二体。それ以外はここに着くまでにエルくんたちが倒してきたような獣やゴブリンといった程度だ」


「二体……なるほど。ではそちらはケント様にお任せして……」


「おいおい?」


「そうですね、ケント様にお任せしましょう♡」

「あぁ~、先生がいてくれてよかったですぅ~!」

「頼んだぞ、剣鬼」

「あとは兄ちゃんと俺たちでやるからさ!」

「後方支援はできる限りする」

「……」


 他の面子も次々と俺に責任を押し付けやがる。


「では、突入の際のフォーメーションなのですが……」


 キングくんとエルくんによって、着々と突入の準備が進められていく。

 え~っと……知らんからな、俺なんかをそこまで頼っても?


(ま、とはいえやるさ……。冒険者のとしてね)


 それに──。

 決めたからな。

 守るって。

 最悪、俺が殿しんがりつとめてみんなを無事に帰す。

 それが俺の使命だ。


 ◇


 カチッ。

 なにかが外れた音がする。 


「よし、隠し扉のトラップは取り除いた。いつでもいけるぜ」


「はい、ではケント様。突入の合図をお願いします」


「え、俺?」


「はい、ワイバーンを倒した英雄のケント様の声だとみな士気が上がるかと♡」


「いや、英雄って……。はぁ……まぁいいや……。俺から言えるのは一点。無理をするな。引く時は引く。盾職ガーダー一人。騎士二人。剣士二人。スカウト一人。狩人一人。……っと、それに荷物持ちが一人か。バランスのいいパーティーだ。それぞれが役割をこなせば絶対に勝機は見いだせる。俺たちの勝利条件は敵の殲滅じゃない。戦いが終わった時に全員が生き残ってることだ。生きてないと次に繋がらないぞ。だから、生きて帰るんだ、全員で。必ず。泥水を啜ってでも。絶対に。いいな?」


 みなが静かに頷く。


「よし、じゃあ開けるぜ」


 テンが隠されていた石版を操作すると。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……。


 洞窟の最奥の壁が唸りを上げてゆっくりと開いていった。

 中から風が吹き込んでくる。

 魔力のない俺でもわかる。

 イヤな魔物の匂い。

 死肉と、血の匂いだ。


 そして、視えた。

 強大な波紋の持ち主の二体の魔物。

 半人半蛇のラミア。

 石塊いしくれ人形のゴーレム。

 どちらもデカい。


「すまん、先に行く!」


 俺は視線を読まれないように剣を顔の前に掲げると、一気に魔物ひしめく大広間の中に突っ込み──。



 ザ──ンッ──!



 ゴーレムを両断した。

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