第30話 おじさんパーティー、再集結する

 ミカの師匠幼女ことリンネ・アンバーをゲンコツしてこらしめた後、一旦落ち着いて話のできるところへと思って移動したんだけど……。


 ◇


「は? なに? このメンツ?」


 セオリアがジト目でそう告げる。

 かなりきれいに片付いてきた冒険者ギルドのフロア。

 そこの丸テーブルを囲むのは──。


 【騎士団組】

清らかな白鳩プラミチア女騎士団』団長セオリア。

聖なる鷹セント・グリフィス騎士団』副団長キングくん。


 【盗賊組】

 元盗賊ギルド長ハンナ。

 元その部下、色黒イケメン剣士エル。


 【魔法組】

 大魔道士リンネ。

 呪術師あらため寿術師じゅじゅつし』のミカ。


 【おっさん組】

 俺。

 冒険者ギルド長ベルド。


 の八人。

 え、人多すぎ。

 決して大きいとは言い難い丸テーブルを囲んでパンッパン状態。


(リンネと落ち着いて話ができると思って連れてきたのに……)


 しかたない。

 このこんがらがりそうな話題と人間関係を一個ずつ片付けていくとしよう。


「え~っと……まず騎士団組に聞きたいんだけど、セオリアとキングくんはなんでここに?」


「なによ騎士団組って? こんなのと一緒にしないでほしいんだけど?」

「嬉しいなぁセオリア殿、こんなの呼ばわりしてくれるだなんて」


 不機嫌そうなセオリアと、ニコニコスマイルのキングくん。

 対照的だ。

 しかもキングくんはセオリアに対してのリアクションが常におかしい。

 だからなんか不気味だし、話してると頭が混乱してくる。


「私はケントがいるかなと思って顔を出したんだけど?」

「僕もです♡」


 なるほど、二人とも俺に用があるらしい。


「なにか用事があったのかな?」

「いや、顔を見たかっただけだけど?」

「同じく♡」


 え、二人とも職務中だよね?


「二人で一緒に?」

「違うわよ、たまたまここで一緒になっただけ」

「こんな醜いメス豚と一緒に街を歩くだなんて一体どんな罰ゲームなのでしょう?」


 あ、また出た。

 キングくんのセオリア蔑視べっし

 この数日間でわかったこと。

 キングくんは礼儀正しい好青年だ。

 女性自体に差別的な男騎士団の中でもとりあわけ紳士的。

 キングくんが異常に差別するのは、セオリアただ一人。

 しかもこれ、なんかわざとじゃなくて素でやってるっぽいんだよね。

 何回も注意したんだけど、いまだに直らない。


「キングくん……? セオリアを侮辱したら怒るって俺言ったよね?」

「あぁ! すみません、以後気をつけます!」


 そう、こうやっていつもちゃんと申し訳無さそうに反省はするんだ。

 たぶん悪い人じゃないとは思う。

 ただ、セオリアだけを異常に侮辱してる。

 ……なんで?


「ギャハハっ! セオ姉がメス豚だってよ! この騎士、きれいな顔しておもしれ~じゃねぇか!」


 下品に爆笑するのは元盗賊ギルドリーダーで、今では『跳ぶビーティング僧侶プリースト』でお馴染みのハンナ。


「ハンナ……? あんた笑い過ぎじゃない……? 十年間一度も手紙返さなかったくせにさ……?」


 ゴゴゴゴゴ……。


 おぉ……またセオリアから伝承上の超危険指定生物レベルファイブ、死者の王デスサルコーばりのオーラが……。


「いや、だからそれは悪かったっつってんじゃね〜かよ。騎士になったら頭まで固くなんのか? あ~、元々頭も身持ちも固かったか。モテね~だろうな~、セオ姉は」


「ん、で、す、っ、て、ぇ~?」


 あ、これあかんやつや。

 そう思って止めようとすると。


「そのとおりです! こんな醜悪で怠惰な豚に心惹かれる者などいません!」


 ちょ……キングくん!?

 それはいくらなんでも一線超えすぎでしょ!?

 しかもかつての仲間が再会したって席でさ?

 さすがにこれはおじさん、しばかざるを得ないか……?

 いや、でもせっかくの再会の席で事を荒立てるのもな……。


 頭を悩ませていると、イケメン色黒剣士エルくんが口を開いた。


「あの、いいでしょうか。まず、副団長殿はセオリア様に対しての侮辱が過ぎます。出て行けとは言いませんが、この冒険者ギルドにいる間は発言を禁じます。ここでは私達冒険者がルール。いかに騎士様といえど、それに逆らうことは出来ぬはず。よろしいですね?」


 こくりと頷くキングくん。


 おぉ……なんという大岡裁き。

 見事だ……エルくん……。


「そしてボス。あなたとセオリア様との関係はわかりませんが、煽らないようにしてください。そうやって仲をたがえることがケント様の迷惑になっていることを理解されたほうがいいです」


「うっ……ケントの迷惑……? わかったよ……チッ」


 簡単にハンナまで手なづけるエルくん。

 え、すごっ。

 なんでこんな有能常識人が盗賊ギルドなんかでハンナの部下をやってたんだ……。


「さ、ではケント様。お話の続きをどうぞ」

「お、おぅ……」


 え~っと、それじゃまずは……。



 説明タイム。


「なるほど、つまりこういうことですね。ジャンヌ様の持ち帰った宝珠オーブ鑑定のために招かれたリンネ様とミカ様がケント様を見かけて結界の中で力試しをしたと。その結果、ミカ様とケント様の即席チームにリンネ様がやぶれたと。で、落ち着いて話ができるようにここ冒険者ギルドへと連れてきたらみんながいたと」


 エルくん、まとめ上手すぎる。

 なんだろう。

 今後もずっとお付きの書記とかやってほしい感じ。

 いやいや、別に俺はそんなおえらいさんじゃないんだけどさ。

 それくらい有能。

 エルくんがいたら万事ものごとがなめらかに進む。

 エルくん、最高だよエルくん。


「そういうこと」


 まぁ、力試しいうか。

 殺し合いだったんだけど。


 あ、ちなみに。

 ハンナとセオリアの謎の腹痛、腰痛、頭痛はミカの呪いの影響だったらしい。

 なんか呪いが間違ってピンポイントで二人を狙撃してたとかなんとか。

 ほんとか? とも思ったけど、ここで追求するのなと思いそのまま流した。


「ふふふん! ふんふふふんふん! ふふふふふん!」


 エルくんから喋るなと言われたので鼻息だけで何かを告げようとしてるキングくん。

 滑稽だ。

 せっかくイケメンなのに……。

 残念なイケメン、キングくん。

 そんなキングくんを無視してリンネが口を開く。


「しかし剣鬼ケント・リバーはさすがじゃった……。限られた条件の中で瞬時に最適解を見つけ出す判断力、そしてそれを実行することの出来る行動力。どちらを取っても超一流。まさに現世最強の剣士じゃの……」


 ……はぁぁぁぁぁぁぁぁ!?

 現世、最強……?

 いやいや、お世辞もいい加減にしてくれよ……。

 ただの引退して今たまたま引っ張り出されてるだけのおっさんだっつーの。

 いくらゲンコツ食らわされたのがトラウマになってるからってそこまで卑屈にならなくてもいいのに……。


 っていうか。

 ケルベロスをけしかけてきたのも謝ってもらったし。

 ミカに「命を刈り取る」って言ったのも口癖みたいなものだったらしいし。

 なんでもそういうスパルタな教育方針だそうで。

 教育方針なら、俺があんまり口出すことでもないかなと思う。

 しかも黒帳ナイトシェードとかいう術のおかげで白オタマがぶっ壊しまくった街の被害もゼロ。

 結果的には万事収まったって感じになった。


 ただ。

 その代わり、一つだけ気になることが……。


「なぁケントぉ~? 剣技最強のお主と魔法最強のワシで子供を作らぬかぁ~? きっと歴史上最強の子供が産まれるぞぉ~?」


 こんなふうに俺への求愛行為が行われるようになったんだよね……。


「ブっーーーーー!」


 セオリアとハンナが同時に吹き出す。


「なななななな、何を言ってるんですか!? ケ、ケントと……こ、子供ぉ!?」


「おい、クソガキ! ふざけたこと言ってんじゃぇねぞ! ケントは……ケントは私となぁ……」


 慌ててミカも加わる。


「アホのハンナは黙ってなさいよ。いい? ケント様は私と……」


「ちょちょちょっ! ハンナ!? ミカ!? 何言ってるの二人とも!? あああああ、もうっ! ケントはね……ケントは私とぉ……うぅ……」


 顔を赤らめて涙目になるセオリア。

 これはさすがに俺が止めないとだな。


「おいおい、俺の取り合いは勘弁してくれよ。わかってる、わかってるよ。お前ら三人の気持ちは……」


 そうだ。

 三人揃ったんだ。

 一度ハッキリと口に出して言っておく必要がある。


「ケント……!?」

「ケント、なら私と今夜にでも……!」

「ケント様! この十年間、ずっとあなたのことを想い続けてまいりまし……」


 そう。

 お前たち三人が。



「俺に、復讐したいってことはな!」



 間。


 なんだろう。

 空気って白くなるんだ?

 そう思えるほどの特大の「は?」な空気。

 え、リンネさん、時間魔法でも使った?


 そのリンネさんが口を開く。


「ケント・リバー……お主、馬鹿なのだな……」

「ああ、リンネさん。こいつ馬鹿なんだ」


 冒険者ギルド長ベルドが同調する。


「ええ、馬鹿ね」

「マジで馬鹿すぎんだろ!」

「ケント様……お馬鹿なところも愛らしい……」

「ふんふふふふん!」


 え?

 ええ……?

 なんでそんなにみんなから責められなきゃいけないの?

「俺は三人から復讐されるためにカイザルに出てきた」って告白するの結構恥ずかしかったんだけど!?

 勇気を出して言ったつもりだったんだけど!?


 みんなからバカバカ言われる中、このテーブルで唯一の常識人、剣士エルくんが口を開いた。


「え~っと、では今日は一旦解散ということで。まずは宝珠オーブの鑑定が済んでから、くだんの洞窟のことは騎士団と冒険者ギルドこちらで協調して対応しましょう。ということで、リンネ様とミカ様は騎士団のご指示にお従いください。ってことでいいですね?」


「おう、それで頼む」


 ベルド、お前エルくんに任せっきりでほぼ何もしてないよな。


「ふん、ふふふん!」


 キングくんも鼻息で返事してるし。

 エルくん~、お前ほんっとに仕切り上手だなぁ。

 マジでエルくんだよ、エルくん最高。

 と、エルくん萌えする俺だったが、俺にはあと一つだけどうしても気になることが残っていた。


「あのさ、昔の友だち三人がせっかくこうやって十年ぶりに再会したわけだろ? だからほら……ないのか? 握手とか? ハグとかさ?」


「は? 十年間も手紙を返さなかったこの二人と握手? ハグ?」

「私達に呪いをかけたミカと? 冗談じゃねぇ」

「私、馬鹿と生真面目が嫌いなんですよね。それにいちいち手紙返すほど暇じゃないくらいに鍛錬に励んでたんで」


 え、仲わるっ……!

 こんなに仲悪かったっけ!?

 なんか俺がめっちゃ空気読めないやつみたいになってんじゃん!


 と思ってちょっと引いてたら。


「でも……」

「ああ、そうだな」

「挟みますか」


 そう言って。


 ガタッ──。


 立ち上がった三人が。


 俺に近づいてきて。


「え、なに……? なに!?」


 ガバッ!


「おわ~……!?」


 ぎゅぅ~! っと。


 俺を真ん中に挟んでハグしあった。


「ちょっ! なに!? なにこの儀式!? なんで!? なんで俺挟まれてんの!?」


「おかえり、ハンナ、ミカ。心配してたんだからね!」

「へへ、やっぱこの三人だな!」

「うん、だからね、私達の出発点は」


 ぎゅうううう~~~~。


「ちょっ! セオリアさん!? 力つよ……! ハンナも鉄手甲アイアンアーム痛っ……! ミカもなんかブツブツ言ってるし呪いかけようとしてない!?」


「ふんふふふんふー!」

「これが、こいつらの今の距離感かね」

「ふむ~、ワシの付け入る隙はなさそうじゃのう……」


 こうして俺は。

 かつて共に冒険した三人と。

 無事に? 再会を果たしたのだった。

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