第14話 おじさん、尋問する

 冒険者ギルド。

 鼻に傷のある男が椅子に縛り付けられている。

 それをぐるりと取り囲む俺たち三人。

 ベルドがはっきりと言う。


「ああ、この傷にゃ見覚えがある。テン・ラークス。たしかにうちにいた元冒険者だ。そして真っ先に盗賊ギルドに流れた、な」


「むぐぅ……!」


 ガタガタ──!


 テン・ラークス

 鼻傷の男が猿ぐつわ越しに唸る。


「こいつも盗賊ギルド、か。しかし、なんで盗賊ギルドが孤児院を地上げしてる?」


「さぁな、本人に聞いてみるしかあるめぇ。けど、よかったのか? 騎士団に引き渡しちまったほうが……」


「うん、騎士団には引き渡す。でも、その前に確かめておきたいことがあってね」


「団長様はいいのかね?」


「ああ、問題はない。どうせお役所仕事。いま連れて行っても正式な手続きは明日だ」


「そうか、ならいいんだが……ケント、こいつをつもりだ?」


って? こいつは俺だけじゃなく、セオリアや罪のない子供まで危険に巻き込んだんだぞ? なんて決まりきってるよなぁ……?」


 ゴキゴキ……。


「へへっ、かつて『鬼』と呼ばれたケント・リバーがここで復活しちまうってわけか……」


「ああ、だ」


 ゴゴゴゴゴ……。


「お、鬼っ……!? 私の知らないケントの姿が……!? ハァハァ……! 一体何が起きるというのだ……!」


 かもし出す俺たちの邪悪な雰囲気になぜか興奮気味のセオリア。


「むぐ……むぐぅ~~~!」


 鼻傷の男、テンが悲痛な叫び声を上げる。


「ふふふ……今さら後悔しても遅いぜ、テンさんよぉ……」


「さぁ、ケントの責めを受けて正気でいられればいいんだが……」


「むぅ~~~! むぅぅぅぅ~~~!」


「何が起こるというのだ……! ハァハァ……!」


 俺は指を戦慄わななかせながら涙目のテンに近づくと……。



 こちょこちょこちょ~~~~!



「ぶひゅっ! ぶひゅひゅひゅひゅひゅ~!」


 スキル『超感覚』を駆使した『超くすぐり』。

 それをテンの足裏に見舞う。


「ぶぎゅっ! ぶぎゅぎゅぎゅぎゅ……!」

「ほらほら、いつまで耐えられるかな?」


 こちょこちょこちょこちょ~~~~!


「ぎゅ~~~っ! ぎゅぎゅぎゅ~!」

「オラオラ! お前のくすぐったさポイントは俺の『超感覚』ですべてまるっとお見通しだぜぇ~~~!」


 こっちょこちょこちょ~!


「ぶひぃ~! ひぃ~……!」

「セオリアと少女に手を出したこと、後悔させてやる! うぉぉぉぉぉ!」


 高速こちょこちょ十点責めぇ~~~!


「ったく……まさに地獄だぜ……!」

「ベルドさんも受けたことが?」

「ああ、試しに一度だけな……マジで早く殺してくれって気持ちになったもんだ……」


「ゴクリッ……そんなうらやま……いえ、そんな恐ろしいものなんですね……」

「ああ。っていうか団長様、今『羨ましい』って言いかけたよな?」


「いえ、私は決してそんなこと……。団長ですよ? ベルドさん、あんまり変なこと言ってるとしょっぴきますよ?」

「団長様……やめようや、そういう職権乱用は……」


「あぁ、それにしても羨ま……」

「……言いかけたよな?」

「しょっぴきますよ?(にっこり)」


 こうして俺の「超感覚こちょこちょゴッドハンド」による尋問の結果──。



「わかったぞ、やつらのアジトが」


「騎士団でもずっとわからなかった盗賊ギルドのアジトを、こんな短時間で……?」


「ああ。こいつら、孤児院の場所になにかを建てようとしてるらしい」


「なにかって?」


「そこまでは知らないようだ」


「そう……一応ハンナとミカにも知らといたほうがいいかな……」


 セオリアがアゴに手を当てて呟く。


「ん? それってもしかしてお前とパーティーを組んでた……」


「ええ、あなたと共にダンジョンに潜った──私の孤児院の仲間」


「そうか」


 ハンナ。

 ミカ。

 名前を聞くと同時に記憶が蘇ってくる。

 たしか勝ち気な僧侶プリーストと小柄な魔法使いウィザードだったはずだ。

 彼女たちもセオリア同様……俺のことを恨んでるんだろうな。


「二人とも全然連絡返してくれなくて……。一体今頃どこでどうしてることやら……」


「カイザスにいないのか?」


「ええ。ハンナは教会都市アノスに、ミカは水上魔導都市パラボアにいるはずなんだけど……」


「そうか。なら、いつかは会えるだろう」


「だといいんだけど……」


 俺も彼女たち二人に会わなきゃだな。

 会って、あの時のことを謝らないと。

 それが、俺の残りの人生でしなければならないことなんだから。


「よしっ!」


 パンッ! っと手を叩いて空気を変える。


「それじゃ、セオリアはこいつを詰め所に連れてってくれ。ベルド、悪いが護衛で一緒について行ってもらってもいいか?」


「あ? 別にいいがお前は?」


「俺はさすがに疲れたよ。大体こんなに人とたくさん話すのも久しぶりなんだ。さすがに今日はもう宿屋でゆっくり休ませてくれ」


「おう、そうか。たしかにそうかもな。宿は『瑠璃星亭ラピス』か?」


「ああ、そうしようと思ってる」


「おう、じゃあなんかあったら連絡するわ」


「ああ、頼む」


 片手を上げて出ようとする俺。

 セオリアが声をかけてくる。


「あ、あの……ケント……! えっと……ごめんなさん、ケントが疲れてることにも気づかずに色々と連れ回して……」


 俺は上げた手をフリフリ。

 気にすんなよの意味を込めて。


「あと、それと……! あの……せっかく買ってもらったのに……ミサンガ……」


 振り返る。

 セオリアはテンに切られたミサンガをギュッと握りしめている。

 俺は、セオリアを指差してウインクする。


「よかったな。切れたってことは──セオリアの願いが叶うってことだ」


「あっ……」


 露天で手芸屋のおばちゃんの言っていた言葉。


『それは少しだけだけど魔力が込められてるんだよ。切れた時に願いが一つ叶うって言われててね』


「だからセオリア、よかったな」


「うんっ!」


 セオリアの目尻になにか光ったような気がしたが、その時すでに俺は前を向いてギルドを出ていた。


 フゥ──。


 静かに息を吐く。

 

 さぁ──。


 夜。


 狩りの──時間だ。


 セオリアに手を出したむくい。


 受けさせてやろうじゃねぇか。


 盗賊ギルドさんよ──。

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