第3話 女騎士、セオリア・スパーク
【まえがき】
今回はセオリア視点でのお話です。
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憧れだった。
剣士ケント・リバー。
たった一人で数々の迷宮を踏みにじり。
困難なクエストを笑いながら踏破する。
王都でかつて「冒険者ブーム」というものが起きた。
誰もが目を輝かせ冒険者を目指した時代。
十年以上前に巻き起こったそれ。
起きた原因は間違いなく、この男。
ケント・リバーによるものだ。
私だって例外ではなかった。
戦士、僧侶、魔法使い。
適正のあった孤児院の子たちと三人でパーティーを組んだ。
当時、私は十六歳。
他の二人は十三歳と八歳。
子どもの遊びだ。
やれるクエストは薬草採取くらいのもの。
それでも楽しかった。
だって。
その事実だけで、私たちはふわふわと幸せな気持ちに浸ることが出来ていた。
ケント・リバーがギルドに姿を見せたと聞けば、私たちはいつもすぐに飛んでいった。
ふふ……いわゆる『おっかけ』ってやつだな。
その日も私たちはクエストの張り出してある掲示板を物色するふりをしながら、チラチラと受付嬢と談笑するケントを見ていた。
「チッ、ムカつくんだけどあのババア! ケントに媚びやがって!」
「殺っちゃう? 殺っちゃう?
「ダメに決まってる。ああいうのには遠隔で『
そうだ、思い出した……。
私より年下の二人は、私よりも相当にたちの悪いケント信者だった。
そして、そんな私たちが……。
「おぅ、お前らでいいや! 俺ぁ、今から『
奇跡!
あの伝説の冒険者ケント様が私達に声をかけてくれた!
うそ!? 一緒に冒険できるの!?
やった! やったやったやったやった~~~!
周囲から向けられる嫉妬の視線など全く気にならなかった。
私達も「
夢のようだった。
そして、それは──。
すぐに悪夢へと変わった。
舞い上がっていた私たちはケント様の足を引っ張りまくった。
「邪魔」
シンプルにその一言。
次々と湧いてくる魔物以上に厄介な難敵。
それが私たちだった。
「死んでも責任は取らない」
ケント様は、そう言って私たちをパーティーに誘った。
でも、彼は終始私たちをかばい続けた。
私たちがうっかりと──。
『
のトラップに足を踏み入れてしまった時も。
ほとんど成し遂げた者のいない『
そこに現れた魔物たちの恐ろしさ、強さときたら──。
ブルッ──!
今思い出しても身震いがする。
でも、ケント様は魔物の攻撃を全て一人で受け。
切り裂き。
なぎ倒し。
全滅させ──。
そして、
ケント様の初めての
インクを垂らしたかのようにケント・リバー伝説の最後に付けられた黒い
私たちのせいだ。
世間の風あたりも次第に厳しいものになった。
「女子供をあんなダンジョンに連れて行くだなんてケント・リバーはどうかしてる」
私たちのせいだ。
ギルドに戻って失敗を報告したケント様は、そのまま行方をくらませた。
私たちのせいだ。
私たちが足を引っ張ったせいで。
未熟だったせいで。
舞い上がってたせいで。
伝説の冒険者ケント・リバーをこの世から失わせてしまった。
私たちは誓った。
「強くなろう」
「次こそはケント様の足を引っ張らないような、そんな立派な冒険者になろう」
「そして、もう一度ケント様と──」
私は戦士として最短距離で鍛えるべく、ゼスティア王国の騎士団の門を叩いた。
私以外の二人も今では。
名うての冒険者として。
魔法の専門家として。
それぞれに名を
騎士団に入った私は死にものぐるいで鍛え抜いた。
女だ。
それが騎士団だ。
馬鹿にされた。
幾度も幾度も幾度も幾度もボコボコにされた。
でも──。
私たちを守って戦ったケント様の方がもっとボコボコだったぞ。
もっと強かったぞ。
私はそんな彼の隣に並ぶべく戦ってるんだ。
覚悟が違うんだ──貴様らとは!
石の上にも十年。
私は新たに発足された女騎士団『プラミチア』の初代団長へと就任した。
ああ、これで!
これでやっと並べるはずだ!
あの方の、ケント様の隣に!
でも──。
あまりにも──。
ケント様は、私が彼を恨んでいると勘違いしていた。
否定なきゃ。
恨んでませんって。
私はあなたに追いつけるように十年間頑張ってきたんです! って。
でも、それを告げるより先に、成り行きで一騎打ちをすることになった。
ほんの好奇心。
ちょっとした腕試しのつもりだった。
自分がどれほど強くなったのか。
ケント様との差はどれくらい埋まったのか。
そして、あわよくば。
褒めて欲しい。
頑張ったなって。
強くなったなって。
そう言って欲しい。
あなたに。
私と対峙した彼が呟いた。
『
世界がぐにゃりと歪んだ──ような気がした。
まるで地面と。
空と。
風と戦ってるような。
そんな途方もない気持ちになった。
技術や力。
そんなものを超越した──
そう、まるで
やみくもに剣を振るう。
今まで鍛えてきた技術も、知識も。
何も発揮できない無様な剣筋。
キィン……!
よろよろと振り下ろされた剣は地面の石を叩いた。
そして気がついたら。
私はひっくり返っていた。
全盛期を遥かに凌駕する──達人の域。
あぁ、ケント様……。
あなたは一体……どれほど、の……。
暗くなっていく視線の中。
私はケント様の美しいお顔に見とれる。
ふふ、ケント様、なにをそんなに驚いているのですか……。
驚いたのは私の方──です、よ……。
私たちが表舞台から追いやった天才剣士が……。
まさか、こんなとんでもない存在になっているだなん……て……。
そこで、私の意識は完全に──。
途絶えた。
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