第21話 デートの日
「ああっ、あなた様……!いけません、こんなこと……!」
「どうして?喜んでるみたいだけど」
「わ、わたし、わたし、おかしくないでしょうか?」
「じっくり見てるけど綺麗だよ」
「は、恥ずかしい、です……」
もじもじと試着室の開いたカーテンの奥で羞じらうレティシアに、女性店員さんがよくお似合いですーと笑う。僕もそう思う。
レティシアは涼しげなブルーのワンピースを身に纏っており、それは僕が店員さんに頼んで見立ててもらったものだった。華奢な身体に纏わり付くその服は本当によく似合っていたし、パールつきの白いサンダルもとてもよかった。
「すみません、どっちもこのまま着せていくのでタグ切ってお会計してください」
「かしこまりましたー!お買い上げありがとうございますー!素敵な彼氏さんでよかったですね!」
「創人さま!ですからこんな贅沢、いけませんってばっ」
「そのワンピース、よく似合ってるけど。嫌い?」
「いえ!とても気に入りましたが!」
「お会計で」
「はぁーい」
「えぇええ!?」
レティシアの悲鳴を背後に、レジへ向かう。
会計を済ませ、真新しい服を身につけたレティシアと手を繋ぐ。
「あ、あなた様~……本当によろしかったのですか?」
「今日はデートだから。それにレティシアは制服の他にワンピース1枚しか持ってなかったろ」
普段僕の部屋にいるときは小鳥の姿であることが多いため、なにも問題はなかったのだけれど……今日は特別だ。
「レティシアの着飾ってる姿も見てみたかったからいいんだ。よく似合ってるよ」
「……ありがとうございます。うれしい」
ふんわりと微笑み、ワンピースの裾を持って会釈するレティシアはまるでお姫様のようだ。
「それに今日はご両親のお墓参りですものね。綺麗にして参りませんといけませんね。さあ、参りましょう!」
「あ、そろそろ映画が始まる」
「え?」
「行こう、レティシア。映画。ここのショッピングモール、シアター入ってるから」
「お、お墓参りはー!?」
珍しく僕に振り回されるレティシアの手を引いて、シアターのあるフロアへ急いだ。
なんだか少し愉快な気分だ。
*
「わぁ……すごいですすごいです創人さま!ふわふわのパンケーキですよ!」
映画を見終わったら昼時だったので、カフェに入ることにした。僕はこういうところに入り慣れていないし、レティシアはもちろん初めてだったから戸惑ったが、無事に注文を済ませると、豪華なパンケーキがクリームやフルーツを飾られた状態で現れた。
レティシアは先程見た動物映画の感想をはしゃぎながら話し、パンケーキをぱくぱくと食べ、無邪気な天使様っぷりを存分に発揮していた。
「……でも、あなた様?」
「なに?」
「今日はなんだか普通のデート、みたいです。あの、お墓参りは……?」
「これを食べ終わったら行くよ」
「なんだか今日はぐいぐいモードですね?」
「嫌だった?」
「幸せすぎてこわいくらいです」
レティシアは笑ってフォークを動かす。
「なんだか気持ちが浮ついてしまいます。この前の水族館も素敵でしたけど、お買い物と映画のデートも叶えてくださるなんて……こんなに暢気で良いんでしょうか」
「まあ、思い詰めるのもよくないし。いいんじゃないかな、こういうのも」
「はい。でも、食べ終わったら絶対にお墓参りへ。だって……命日、なのでしょう?」
そうなのだ。
僕がレティシアを両親の墓前に連れて行きたい理由のひとつ。
今日が、大切な両親の命日だから。
悪魔と契約した、あの日からちょうど10年なのだ。
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