第10話 王子様とお姫様と、それからわたし
月城創人くん、というクラスメイトがいる。
物憂げな面差しに遠慮がちな優しい声をした、細身のすらっとした綺麗な男子だ。決して派手ではないけど、指先まで色白で、洗練されてる、と思った。初めて見たとき。
「早乙女さん、職員室まで資料一緒に運んでくれてありがとう」
囁くような声が降ってきて、わたしはどきどきしながら月城くんを見上げ……られなくて、そっぽを向く。
「べつに、同じ日直だしっ。月城くんのためじゃないし」
ああ、やだ、なんでこんな言い方しちゃうんだろう。
心の中で頭を抱えたけど……
「そうだね。それでも、ありがとう」
程好く低くて落ち着いた声が、礼儀正しくそうこたえた。
……王子様みたいだ。
なんて思う。
ぎゃはぎゃは笑う品のない男子たちと、月城くんは全然違う。孤高で、潔癖で、言葉少なだけどそこがかっこいい。
なのに、最近は。
「創人さまっ。こちらにいらしたのですね!」
ぱたぱたと可愛らしい足音がして、月城くんとシンクロするようにそっちを見たら。
「レティシア」
胸を弾ませて立っていたのは、……天宮レティシア。
転入してきた女子で、絶世の美少女。
王子様にお似合いの、お姫様みたいな子だ。
この子が来てから、月城くんは少し変わった。
どうやら彼女とは恋人らしくて、今まで見たことない柔らかく優しげな顔を向けるようになったし、いつも彼女と一緒にいる。話によると同棲しているともいう。……すごくいやだ。
暗澹たるわたしの胸中なんか知らない天宮さんは、澄んだ瞳を向けてくる。
「早乙女さんも、ごきげんよう。創人さまをお借りしてもよろしいでしょうか?」
「……べつに、いいし。全然」
「ありがとうございます」
天使みたいな笑顔をつくり、自然と月城くんと手をつないで歩き出す。
その後ろ姿が、憎いと思う。
今までは、誰も月城くんの魅力に気付かなかった。わたしだけが知っていた。
なのに、そうじゃなかった。
そうじゃなくなった。
王子様とお姫様とみすぼらしいわたし。敵うわけがない。
でも、でも、月城くんは、わたしだけが知ってる憧れの人でよかったのに。どうしてこんなことになったの?
胸が黒い想いでいっぱいになる。もやもやと充たされて、充たされてもなお止まらない。
天宮レティシア。あの子がいなかったら、わたしはもっと月城くんに近づけたかもしれないのに……
そのとき。
「あの女が憎いか?」
不愉快な声、と認識する前に。
ばくん、と心臓が強く胸を叩いた。
「では、おまえがあの女を消してしまえ」
みるみるうちに視界が、いや、意識が暗くなって、わたしは漆黒の闇に飲み込まれた。
何が起きているか、わからないまま。
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