第6話 天使の独白
愛しい人の告白を受けて、わたしは創人さまの唇に自身の唇を捧げました。
悪魔と契約した人間の唇は、苦く不快な味がするものだと知識では知っていたけれど……
……これが、悪魔の味。創人さまの哀しい唇の、味。
何かが胸にこみ上げて、わたしは創人さまの唇を更に貪るように味わいました。
驚いて微かに開いた口の中に舌を捩じ込んで、ちゅ、と音を立ててその苦みを味わいました。
しばらくの間、そうしていて。
わたしの両肩を掴んで距離を取るように離した彼は、目を伏せて呟きました。
「……わかった?」
「はい。……わかりました」
「それなら、僕のことは諦めて、」
「あなた様の哀しみが、流れ込んでくるようでした。あなた様の苦しみが、わたしにはわかりました」
いつの間にかわたしは涙を流していました。驚く創人さまの前でやや荒く涙を拭いましたが、拭っても拭っても溢れてくるのです。それほどまでに、胸に流れ込んだものは、哀切なる記憶でした。
家族を喪った哀しみ。人と関わることを避けてきた苦しみ。……悪魔に身体の半分を売り渡したということは、何が起こってもおかしくないということ。誰も巻き込まないように、創人さまは独りで抱え込まれてきたのです。
この哀しいひとを、小鳥のわたしに優しく触れてくれたひとを、どうして愛さずにいられるでしょう。
「わたしは、あなた様をお慕いしております。その気持ちに変わりはございません。いいえ、ますます気持ちが増しました。」
わたしがつがいに選びたいのは、あなた様だけです。
そう告げて再び抱き着けば、彼の困惑が伝わってきました。それでも離したくないと思ったのです。
ああ、わたしの愛しいかた。
いま、固く決意を致しました。
「わたしはあなた様を悪魔との契約から救います。そして、わたしを愛してもらえるよう尽力し、あなた様を必ずつがいの鳥に致しましょう!」
声を上げ、顔を上げ、胸を張ってそう宣言します。
創人さまはきょとんとされていましたが、少し苦い表情で言いました。
「好きにしていいよ」
はい。好きにいたしますとも。
わたしは空を見上げます。胸に熱い決意を握りしめて。
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