俺が唯一の楽しみにしてる事
月城 夕実
俺が唯一楽しみにしてる事
授業前の中学校の教室。
「ぜーったい、話さないで」
彼女はそう言って、耳を塞いでいた。
「ゆう、そんなことしても無駄だよ?」
俺はニヤッと悪い顔で笑う。
俺は高山
今教室で、幼馴染の沼田
彼女は眼鏡をかけていて、長い黒髪を三つ編みにして後ろで縛っている。
文学少女という言葉がぴったりだ。
「殺した、犯人は・・・」
俺は口を開いて言いかけた。
コツン!
いい音が響いた。
「しゅう~いじめるのも程々にしとけよ?」
俺の頭に鈍い衝撃が走った。
頭を固い何かで叩かれたみたいだった。
「痛ってえ~。って入沢?」
涙目になり、思わず頭をさする。
友達の入沢が、俺の頭を教科書の角で叩いたみたいだった。
俺は彼女の好きな本を探しては、いつも先回りして読んでいる。
推理小説ばかり。
だけど、何が面白いのかよく分からない。
ただ言えることは、共通の話題が出来る事だ。
「本末転倒だろ?」
入沢は言った。
俺は、彼女の困った顔を見るのが好きなのだ。
「いいじゃん別に、俺の唯一の楽しみなんだからさ」
****
以前は、あんな意地悪するような子じゃなかったんだけどな。
授業が始まり、柊は前を向いた。
幼いころからよく遊んで・・今でも遊んではいるけど。
小学校までは素直でいい子だったのに・・・。
「しゅうのばーか」
私は、柊に聞こえないように呟いた。
そうだ!
仕返しすればいいじゃん。
って、柊の嫌がる事って何だっけ?
「ん~」
思いつかないな~。
そもそも嫌いな物ってあったっけ?
**
「嫌がらせかぁ~そうだねぇ」
私は柊の姉で3つ年上の、明美さんに相談していた。
いつも頼りにしている人で、家が隣でよく行き来している。
今は明美さんの部屋に来ていた。
「しゅうに嫌いって言えば、嫌がらせになるかな?」
「嫌い?」
「意地悪する柊なんて、嫌いよって言えばいいのよ」
明美さんは、何故かニタニタ笑っている。
「それだけで?」
「それだけで」
よく分からないけど、私は実行してみることにした。
こんな事で効果があるのだろうか?
半信半疑なんだけど。
****
俺は優に呼び出された。
校舎裏に。
まさか・・告白とかって無いよな?
誰もいない所で二人きり。
ドキドキしてきた。
校舎裏って意外と静かな場所なんだな。
「前から言おうと思っていたんだけど、意地悪する柊嫌いなの。もう意地悪しないで」
え?今何て言った。
嫌い?
好きじゃなくて・・?
校舎裏って所から、俺は脳がバグっていたのかもしれない。
うきうきして、てっきり告白されるものだと。
一気に奈落に落とされた気がした。
膝をついて、くずれ落ちる。
「はは、そうか嫌いか・・おれ、意地悪してたものな・・」
どこから間違えた?
俺は優がたまらなく好きだというのに。
「え?具合でも悪いの・・顔真っ青だよ?」
しゃがみ込んだ俺を見て、優が慌てている。
屈んで顔を覗かせていた。
嫌いでも心配はしてくれるんだな。
「胸が痛い・・」
「え?まさか心臓の病気なんて言わないよね?」
「俺は健康体だっていうの!」
「え?でも今、痛いって・・」
俺は優を抱きしめた。
「胸が痛いっていうのは・・言わないと分かんないよな・・俺、優の事昔から好きだから。嫌いって言われて胸が痛くてしんどい」
俺は頑張って笑顔を作って見せた。
多分痛々しく見えるだろう。
「そう・・だったんだ。ごめんね。全然気が付かなかった・・」
「嫌だったんだな・・もう止めるよ。子供っぽくて悪かったな」
「そうしてくれると嬉しいな」
優は、やさしく俺の頭を撫でていた。
「ありがとね、私を好きになってくれて」
****
後日教室で、俺は入沢に話した。
「ってことがあったわけだ」
「って惚気かよ~羨ましいな」
俺が優に告白したことにより、付き合う事になった。
もう意地悪は、出来なくなってしまったけれど。
一緒になって歩いていると、手を繋ぐことが多くなった。
「手を離さないでね。はぐれないように」
俺は少し大げさだなと思った。
そして、優は以前よりよく笑うようになった。
「今日も可愛いな」
俺の唯一の楽しみは、少し変化していったようだ。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
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俺が唯一の楽しみにしてる事 月城 夕実 @neko6
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