第41話 黒魔術ギャング



――――真夜中、松明を片手に私は森の中の、過去に遺棄された塔の廃墟に向かっていた。

この塔は200年前に起きたここら辺の諸侯の小競り合いで破壊され、そのまま廃墟として残っているのである。

まあ、塔と言っても、小さな城のような、要塞のようなものなのだ。

地域の小貴族が戦時に立てこもる為の建物だ。

今、この廃墟の塔には悪い連中が住み着いているのである。

黒魔術師ニルシュを頭にした黒魔術強盗団の拠点となっているのだ。

正直、会うのは嫌な連中なんだが、魔王軍に参加すると書簡を魔王様に送ったのだ。

私はその返事を持って、この悪の巣窟にやってきたのだ・・・


「おい、そこの魔女!どこのビッチだ!?」


嫌ですね・・・初対面相手に酷い言葉をぶつけてきやがるこの下っ端め・・・

そういう非道徳的な尖った言葉を使えば強くなった気にでもなっているのですかね?

まったく、こういうやつは嫌いです。


「魔王様から、いい返事を持ってきました」


「ほう、魔王の女か!いいぜ。入れ!親分が奥にいる!」


あたしはこの廃墟の塔に入ると、下っ端共が睨むように見てくる中、塔の階段を上って、強盗の親分であるニルシュに会いに行ったの・・・

塔の最上階で、頭蓋骨を磨いて、グラスに注がれたワインを飲むニルシュがいたの。


「よく来た。お前、あれだろ?あれだろ?魔王の使いの魔女だろ?だよな?!」


予想外だったのは、ニルシュは女の姿をしていた事・・・


「なんだ?なんだ?オレが美女すぎて見惚れてるのか?ハハっ!オレに見惚れてっと、魂抜かれるぞ」


「いや、男だと思っていましたから・・・一応は強盗団の親分ですし」


「そうか。そうか。そうだろな!オレは悪魔と契約して、姿が、あれだ。姿を自由自在に変化出来るんだ。好きな姿をしているだけだ。元は男だぜ」


「・・・魔王様からの返事、お持ちしました」


私は手紙を渡し、とっとと去りたかった・・・


「まあ、少し待て。良い酒がある。良い酒、良い酒であると思う。味見してくれ」


ニルシュの部下がグラスを持ってきて、私の目の前のテーブルに置いて、ワインを注いだ。


「そのワインは、あれだ。あれ。この前襲撃した村で奪ったもんだ。多分、きっと、いいやつだ」


こういうやつの出すワインはあまり飲む気にならないんだけど、何か言いがかり付けられるのも嫌だから、一応飲んでおく事にしよう・・・


「では・・・いただきます・・・」


1口・・・

微妙だ。

多分、この状況にいるから、安心して味わえないのもあって、美味しいとは思えない・・・

でも、一応、答えておこう・・・


「甘みが控えめで、さらりと飲める、食事と合わせるにはいいワインですね」


正直、適当な事を言っただけ。


「そうか。そうか。それならよかった。オレは味覚が死んでる。悪魔に捧げた。だから、味はわからん」


味がわからんのにいいやつだって言って客にふるまうとか、こいつやべぇやつですよ・・・

ニルシュは手紙をテーブルに置いた。


「魔王からの返事はあれだ、あれだ、思っていた程では無いが、まあ良い。これから友好的な同盟関係を続けて行こうではないか。そうだろ?そうだろ?そうにきまってる」


こいつ、魔王の配下に下るのではなく、対等の同盟関係を望んでいるようだ・・・

たかが強盗団の癖に・・・


「オレの強盗団はあれだ、今、13人の人間から成り立っている。他にこの周辺には50人程の配下の強盗連中がいる。それで、そう、それでいて、あれだ、あれ、各地に点在している強盗団とつながりがあり、それをあわせれば500人以上になるぜ。そいつらが使える農民を拉致して兵にあてれば、1,000人は超える。後、オレの財産を使えばさらに兵は増えるぜ。 5,000人は軽く超えるだろうな」


正直、こいつの兵力の計算はあてにしていない。

だが、敵にすれば厄介で、味方にすれば使い道がある。

魔王様がこいつに求める事は、神聖帝国の兵力分散と、神聖帝国内部の脅威によって人々に恐怖を与える事だ。


「私はそろそろ、ここら辺で帰りますね」


「いいのか?これから、あれだ。村を襲いに行くが、観戦しておかなくていいのか?」


「いや、別にいいです・・・」


「おいおい、あれだぞ。こういう付き合いができないやつはあれだ。信用できねえし、ムカつくから殺すぞ?」


ええ・・・いきなり殺されるのですか?


「わかりました。そこまで言うなら仕方がないですね・・・」


まあ、こいつらに私を殺せるとは思えないのですが、後でいちゃもん付けられて面倒になるよりはましですね・・・


ニルシュは部下を5人引き連れて、近隣の村に向かった。

松明を付けず、月の明かりを頼りに薄暗い森を進み、背の低い柵に囲まれた村に到着した。


そこで、ニルシュは手持ちの燭台に乗せた蝋燭に火を付けた。


「この蠟燭はあれだ。胎児と乳児の脂肪を混ぜ合わせ、特殊な魔術で作りだした蝋燭だ。これが灯っている間、眠りに付いた人々は、目を覚ます事は無い」


そう説明を言うと、ニルシュ達は堂々と村に入って行った。


「待て!何者だ!?」


そう声を上げたのは村の番人だった。

彼は片手に松明、腰に剣を携えていた。


「こんばんは。今日は月が明るいですね」


ニルシュは番兵に近寄る。

番人は真夜中に突然現れた美女の姿に戸惑っているようだった。


「こんなに月が明るい夜は・・・オオカミに気を付けなければなりません」


ニルシュは番人に近寄って、彼に触れると、小声で呪文を唱えた。


「魂よ、人の姿を離れ、我の思うが姿に移り変わり給え。ケルパーエンダーン」


すると、番人は犬の姿に変わってしまった。


「おやおや、あれだね、あれ。オオカミかと思ったら、ただの犬だったね」


元番人の犬は怯え、走って逃げて行ってしまった。


その後、ニルシュ達は村の家々の戸を蹴り破り、金目の物をあさり、幼子をネズミに変化させて袋に詰め、若い女達を猫に変化させ、これも袋に詰めて、拠点へ戻った。


「幼子は魔術の材料として使う。後、オレの魔力を増強させるための儀式でも使う。女は野郎共への報酬だ。これらは後で人の姿に戻す」


「報酬?」


「ああ。野郎共に抱かせてやるんだぜ」


「っ!男の人っていつもそうですね・・・!女のことを何だと思っているのですか?!」


「っは!?好きに罵るがいい。今日はまだ、緩い仕事だぜ。いずれ、もっとでけぇ騒ぎを起こしてやるんだ」


私はこれ以上、こんなクズ野郎とは一緒にいたくないと思い、その場を後にした。

しかし、こんなやつを魔王軍に迎え入れなくてもいいと思うのだが・・・

魔王様は何を考えているのやら・・・――――



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る