#55

やっとキジマさんが復活した。


結局1時間も休憩する事となってしまった。




「ご迷惑をおかけしました……。どうしても虫はダメでして……」


「いや、あれは俺もダメだ。虫系のモンスターを甘く見てたよ」




あれは怖い。夢に見そうなレベルだ。


思い出しただけで寒気が……。




全員の気分を変えるために、コンロでお湯を沸かして紅茶を作る事にした。


せっかく買ったんだし使わないとね。


作ってから気づいたよ。コップが無い……。


何故コップを買う所まで頭が回らないの? バカなの? 死ぬの?


落ち込んでいると、キジマさんがコップを差し出してくれた。




「私はコップを持ってますから。2個あるので、交代で使いましょうよ」




冒険者たるもの、野営に必要な物は常に持っているそうだ。


さすが赤色、優秀だなぁ……。


コタニさん? 当然、売っていて持って無かったよ?




交代で紅茶を飲んでいると、さらに自分のバカさが見えてくる。


砂糖が無い。ミルクが無い。スプーンが無い。使い終わったティーパックを捨てるゴミ袋が無い。


はっきり言って、ある物の方が少ないだろう。情けない……。


俺は手帳を取り出して、買う物リストを作って書いておいた。


こうしないとまた忘れるから。本当は今すぐにでも買いに行きたいぐらいなんだけど。




今はとにかくレベル上げだよね。


あれっ? RPGのつもりで考えてたけど、レベルってそもそもどうやったら上がるの?


RPGのように経験値? でもステータスに経験値の表示が無いぞ?


ここは恥かくのを覚悟で聞いてみよう。




「5階に挑む前に、ちょっといいかな?」


「なんでしょう?」


「いまさらだけどさ、皆、レベルいくつ?」


「本当にいまさらですね。普通は契約する時に聞くものなんですよ?」


「そういうものなの?」


「はい、レベルで契約金が変わりますから」


「なるほど! それは知らなかった!」


「……福田さんはどんな生活をしてたんでしょうね。私はレベル42です。カンダは47です」


「私は16っスね。あまり上げてなかったっス」


「福田さんはいくつなんですか?」


「……4」


「えっ?よく聞こえませんでした。24ですか?」


「……4です」


「……本当に福田さんはどういう生活をしてたんですか?! 箱入り息子ですか?!」


「戦闘なんかした事無かったんだよ!! しょうがないじゃないか!!」


「4なんて子供の頃になった覚えがあるっス……」




全員が驚愕の表情をしている。


俺は心に大ダメージだよ……。


アサイさん、せめて10くらいで送ってほしかったよ。




「俺が4なのはもういいじゃないか! で、どうやったらレベルって上がるの?」


「それも知らないんですか?!」


「一般常識なの?」


「そうですね。ナミちゃんでも知ってると思いますよ?」


「そうなのか……」


「ま・まあ知らない事は誰にでもあるっス! 覚えれば良いだけっスよ!!」


「そ・そうですよね。レベルはレベルに応じた敵を一人で倒すと上がります。


 例えば、スライムはレベル2のモンスターです。これを一人で大体10匹くらい倒せばレベル2になれます」


「同等になったって事っスよ!!」


「このダンジョンで言えば、コウモリがレベル4ですね。あれっ? もしかして……」


「はい、コウモリを倒してレベル4になりましたよ? それが何か?」


「いっ、いえ! なんでもありません!! そのようにレベル3のモンスターを倒さなくても4には上がれます。


 ビッグベアーはレベル10なので、一人で倒せば10になれますよ」




大人の平均がレベル10って聞いたけど?


平均的な大人はビッグベアーを1人で倒せるんですか?!


この世界の大人って強いんですね……。




「5階のモンスターは3階のモンスターと同じだけど、レベルの高いモンスターですよ!


 ここでレベル上げたら良いと思います!」




カンダさん、良い事言った!


だからその哀れんだような目で見るのはやめよう。全員な!


飛び級が出来るなら、ここで一気に10台に乗せてやるぜ!




俺は『レベルの高いスライムが出て来い! あっ、迷路は迷わない方向で!』と祈りながら進む事にした。

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