第15話 薔薇のような人
「ところで、どんなお話をするの? 私もちゃんと楽しめるのかしら」
「……」
考えていなかった。
「……その顔から察するに、考えていなかったのね。でも、私と話したいということはそれなりに興味を持ってくれているということでお間違いない?」
私は首を縦に振る。
それは間違いない。興味がなければ話そうなんて言葉は出ないし、さっさと逃げる。それに……蘭ちゃん、ちょっと近寄りがたい雰囲気があるけど、寂しそうな感じもするんだよね。
「興味を持たれる、ということは少なくとも無関心ではない。でも、それが私にとって不利益になるものだったら、覚悟なさい」
「そ、そんなこと考えてないよ! 私はただ、話したいだけで……」
「……仲良くなるつもりは、ないのね」
「あ」
やばい。墓穴を掘った。
「いいのよ。そのくらいの正直さで。その方が付き合いやすいわ。ただ、ひとついい?」
「う、うん」
「あなた、ばかって、言われない?」
『お前って本当に馬鹿だなっ! いや、いい意味でさ。俺お前の兄貴やってて可愛いなーって思う時あるよ』
……鏡お兄ちゃんを思い出した。
よく私のことを馬鹿って言ってきた、鏡お兄ちゃん。
でもその馬鹿には、愛情があった。
「ぐすっ……うぅ……」
「ちょ、ちょっと! 私がばかって言ったのがそんなに嫌だったの? 何も泣かなくても……。子供じゃないのだから。ほら」
蘭ちゃんは私にハンカチを手渡してくれた。
「これで拭きなさい。何か、嫌な思い出でもあったの? とても、悲しそうな顔をしているわ」
「よく私のことを馬鹿って言ってくる兄がいたの。馬鹿って言われていつもムカついてた。だけどそれは本気の馬鹿じゃなくて、愛情があったの。その兄とはもう会えないから……、ごめんね……」
「会えないって……。そう。それは、辛い想いをされてきたのね」
貸してくれたハンカチで涙を拭いていると、蘭ちゃんは私を抱きしめる。
その優しさに、私は何故だか違和感を持った。
何か違う。
本当は、そんなこと思っていない。
蘭ちゃんは、きっと、違うことを考えている。
警戒しよう。彼女は、危険だ。私の頭の中で警鐘を鳴らす何かがあるんだ……。
「蘭ちゃん、ハンカチありがとう。でも、それは本心?」
「え?」
蘭ちゃんは困惑した表情を浮かべた。
「なんだか、蘭ちゃんの言葉の裏に、何かある気がしちゃって。申し訳ないのだけど。あ、ハンカチは今度洗って返すね」
「……隠しても、無駄ね。あなたのような人間には。あと、ハンカチは今洗って返してくれればいいのよ。魔法で」
「あ、そっか」
……どうにも私は、魔法という存在をよく忘れてしまう。
でも、蘭ちゃんは隠していたことを、話してくれる気になったらしい。
なんとなく、表情が先ほどよりも大人っぽい。
何を話すのだろう。
私は、少しばかり身構えたのだった。
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