第14話 花の香り
授業は正直何も耳に入らなかったと言ってもいい。あのお嬢様、蘭ちゃんとの放課後に何を話すのかがとても怖くてそれどころではなかった。
今日はどこに行くも何をするにしても全部蘭ちゃんがついてきて、教えてくれた。
あれ? もしかしていい人? なんて思ったのだけれど、だったら、あの時感じた敵意がわからない。
そんなことを考えていたら、あっという間に放課後になった。
チャイムが鳴って、私は蘭ちゃんに手を引かれて蘭ちゃんの部屋へと招かれた。
「ここが私のお部屋ですの。さあ、入って」
中に入ると、暗めの赤い色がメインのあまり目に痛くない至って普通の部屋だった。ただ、部屋にあるものはどれも高級品としか思えない。それだけ精巧な作りをした時計があったり、絵画が飾られたりしている。
「さて、手鞠さん」
カチャリ、と扉が閉まる音と同時に、ガチャッと鍵を閉める音もした。
うっわ、私の予想当たっちゃったかな。
なんだか、危険なにおいしかしない……!
「お話しましょう……?」
「お、お手柔らかに、お願いします」
蘭ちゃんはにこっと微笑むと、クスクス笑った。
「そんなに硬くならないで。ほら、椅子に掛けて頂戴。大丈夫、取って食べやしないわ。今はね」
「今……は……ってことは」
「なんでもないわ。気にしないで。紅茶は何がよろしいかしら。ストレート? レモン? それともミルク?」
「ミルクで……」
「お砂糖は?」
「3つ……」
「入れすぎな気もするけれど、まあ、いいわ。さあ、どうぞ」
魔法でさっと淹れられた紅茶は、とても香りがよかった。きっといい茶葉を使っているに違いない。
一口飲んでみると、ミルクと砂糖のまろやかで甘い味がして、とても美味しい。
「美味しいです……っ。蘭ちゃん、ありがとう!」
「いいのよ。たまには、こうしてクラスメイトとティーパーティーというのもね。異世界からやってきた、手鞠さん」
「うん! ……え? 異世界って、な、何を言って」
なんで、わかるの? なんで知っているの?
……蘭ちゃんって、何者?
「隠さなくてもいいの。私にはわかるのよ。何故かはわからない。だけど、わかるの」
「私を、脅すとか……」
「しないわよ。ただ異世界から来ただけでしょう? そんなの、珍しいけど前例もあるし……ただ」
「ただ……?」
「私の庭を踏み荒らすようなことはなさらないでね」
あれ。一瞬、蘭ちゃんの目が赤く光ったような気がする。でも、今の蘭ちゃんの目は、綺麗な水色。
なんだか引っかかる……。
蘭ちゃんは、ふわふわとしたピンクの髪の毛を撫でた。
「邪魔をしたら、ただの人間のあなたにはつらーい毎日を送らせてあげる」
「邪魔って何が邪魔なの?」
「そんなの、言えるわけないじゃない。ただ、言えることは宮ノ内家の邪魔をしないでということよ」
髪をさっと靡かせた。
その時にふと見えたのは、耳にあるピアス。
赤い石で、無駄な装飾がない……。
待てよ。何だろう。引っかかる。さっきよりも、ずっと確実に。
もうちょっと、話してみよう。そうすれば、何かわかるかもしれない。
「蘭ちゃん」
「なぁに?」
「もう少し、話そうよ」
蘭ちゃんは一瞬きょとんとしたけど、ふうと息を吐いて「いいわ」と言った。
花の香りが蘭ちゃんからする……。
何かを隠すかのように。
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