第5話 新しい世界
目をつぶって異世界に入り、風を感じて目を開ける。
するとそこには異世界の、これぞファンタジーというような光景が広がっていた。
中世的な雰囲気漂う世界。異国というよりゲームの世界でしか見たことのないような特徴的な服装の人達が街を行き交う。
結構マントを着ている人が多くて、旅人とか魔法使いが多いのかなぁと思う。
そして私は自分の足元を見た。
……よかった。ちゃんと私の服装は変わっていた。
姿は変えなくていいって言ったからどうなるかわからなかったけれど、服装も変えてくれたようだった。
それに知識もしっかりと頭にあるから、日常で何かに困ることもほとんどなさそうだ。
まあ、詳しい服装は鏡を見ないとわからないから、何とも言えないけど、周りが変な目で見てこないから大丈夫なんだろう。うん。
とにかく、新しい家に行きたい。
そう思った私は、家への道を歩いていく。
市場が開かれている、ということは今日は日曜日か。
異世界にも日曜日があるなんて、なんか変な感じ。
でも、元居た世界といろいろと近い方がいいという条件を、宇都宮さんはしっかりと聞いてくれたんだろう。
この街は季節も日本と同じで4つあるから、今から季節の移り変わりを見られると思うと楽しみだ。
……家族がいれば、もっと、楽しかっただろうにな。
なんで、私だけなんだろう。
はっとして、私は頭を振る。
ダメだ。もう。
こんな風に落ち込んでばかりいたら、それこそ……。
皆が、落ち込むだろうな。
少なくとも、美鶴はきっと逃げられただろうから、美鶴だけでも元の世界で元気に生きていてくれれば、それでいい。
「あっ!」
どんっと音を立てて私は転んでしまいそうになる。
でも、誰かが私の手を引っ張ってなんとか転ばないようにしてくれた。
「危ないだろ……。前を見て歩けよ。って、手鞠じゃねえか」
「ごめんなさい……。あ、あなたは」
「はあ? あなた、だと?」
目の前の人物を見てみると、その人は私のこの世界での幼馴染の
知識として、記憶としてはあるのだけれど、実際に目にしたのは今回が初めて。
だから「いつも」の私らしくいられなかったのだ。
そんなことを考えていると、遼は私をじっと見てこう言う。
「……お前、体調でも悪いのか? 家まで送ろうか? いや、送るよ。どうせ俺も帰るし、お前の家は隣だからな」
「あ、うん。そうだった。ごめんね。ありがとう。それに明日から、魔術高等学校にも行けるんだよね。私」
そう、私はこちらの世界でも高校生をやれるのだ。
ただ違うのは、普通の学校ではなく、魔術学校という点。
私に魔法が使えるかはわからない。でも、宇都宮さんが「オプションでつけておきますねー」と軽く言ってくれていたから、きっと使える。うん。もしダメだったら宇都宮さんを呼び出そう。どうやるかはわからないけれど。
「お前……、本当に大丈夫か?」
遼が私の額に自分の額を……って!
「ま、待った待った! 大丈夫だから! 引っ越してすぐだからちょっと調子が悪かっただけ。気にしないで。ごめんね。ありがとう」
そう言うと、遼はよく見ると端正なその顔立ちで、少し心配そうな表情の後、困ったように笑った。
「そっか。手鞠が大丈夫って言うなら、大丈夫だな」
……いけない。私、今。
顔に熱が集中しているのが自分でもわかる。
宇都宮さん、顔のいい人、こんな身近に置かなくてもいいよ……。
それに、どことなく鏡お兄ちゃんにも似ているのが、私には切なくも嬉しい。そんな複雑な気持ちにさせるのだった。
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