第2話 神様

 ぱっと視界が白くなった私。

 辺りを見回してみると、背後から声がした。

「あらぁ、来てくれたんですね。人生、お疲れさまでした」

 振り返るとそこには……普通のサラリーマンのような人がいた。

 いや、サラリーマンでしょ! 何、その紺色のスーツ!

 髪の毛七三分け!? 初めて見たわ!

 ……それに、五十代くらいの普通の営業担当の男性にしか見えないんだけど。

「どうも。あなたの世界の担当の神です。名前は宇都宮うつのみやです。あ、地名とかは関係ないので気にしないでください」

「……え、嘘っしょ」

 思わず私はそう言ってしまった。

「いえいえ、冗談でも嘘でもありません。あなたは死にましたよ。覚えていらっしゃるのでは?」

 ……確かに、記憶はあるけど、痛みなんてないから本当にあったことなのかわからない。

「あのー、死んだって言われても、そう信じられるものでは」

「ですよねー。私もそう思います。神でもそう思うくらいですから、人間からしたら余計ですよねー。急に言われてもねぇ。私もこの案件抱えたくなくて、あの手この手尽くしたんですけど、起こっちゃいまして……。はあ、報告書書いて提出するの面倒だな。部下にやらせよ……」

 おい、ダメな上司。

 なんて、思っていたら、その宇都宮さんは私に笑顔でこう言うのだった。

「あ、じゃあ心臓の鼓動がないから、それで確かめたらどうですか!」

 いいこと思いついたみたいに言われても……と思いつつ、心臓に手を当てる。

 ……まさか。

 え、本当に?


 鼓動を感じられなかった。


「どうです? 本当だったでしょう? 残念! あなたの命は絶たれました。ご愁傷様でした……って、これって遺族に言うんでしたね。いやあ、すみません。人間と話すのは久々なものでして。あはは……。あれ? ……もしかして、泣いてます?」

 馬鹿。泣いて当たり前だよ。

 そう言いたかったけれど、私の涙は止まらないし、声が上手く出なかった。

 手でぼろぼろと零れ落ちる涙を拭うけど、全く間に合わない。

「……」

 神様は何も言わない。

 それが、何よりの死の証拠のような気がして、惨めで、辛くて、嫌だった。

「ああ、ごめんなさい。そうですよね。16歳の誕生日に、亡くなったんですものね……。いいでしょう。ささやかな、プレゼントを差し上げましょう」

「……え?」

「好きな年齢、好きな姿、好きな世界に転生、まあ、もしくは転移しませんか? 転移と言っても、その年齢になるまでは生きていたことになりますし、その世界での生きていた記憶ももちろん存在しますから、知識などにも困りませんよ」

 ……ラノベか?

 私がぽかーんと少しだけ口を開けていると、神様は「ぷっ」と言って、笑い出した。


 なんだか、この宇都宮という神様のことが、人間味があってちょっとだけど、私は好きになってきたようだ。

 とはいえ、ちょっと失礼だなぁと思う。

 営業成績、悪いのでは?

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