22.守る者
「守りたいなら守ってみせろ。ガキが!」
「やってやるさ!!」
二人は剣を交えた。
互いに斬込み方を変えては防ぎを繰り返し階層内に激しい金属のぶつかり合う音が響き渡る。
両者、それぞれの想いを抱えた状態での戦いは時間が経過していくと共に気分が高ぶり激しさを増していく。
「そんなものなのか! それで俺を殺そうと言うのか!」
「まだまだこれからだ!」
時間が過ぎるごとにファットの体力は奪われていく。
しかしそれと同様に、いやそれ以上にエトは体力を消耗していた。
相手は人間。
魔物と戦う時とはわけが違う。
このファットとの対人戦においてエトに残された時間はそう長くはない。
残された時間の中でエトは好機に導く攻撃をしなければならない。
だがエトには考えが浮かんでいない、というより考える隙がないのだ。
相手は公共ダンジョンにおいて十階層へと難なく行ける者達。
対するエトは現状どうにかして六階層、瀕死のところで十階層の階層ボスを倒す程度。
両者の間には少なからず差が生じていた。
そしてエトはその力の差に対応することで精一杯だったのだ。
「おらぁああああああああああ!!!!!!!」
「!!!?」
それでもエトはただがむしゃらに立ちはだかる者達に剣を突きつける。
「一体何をした……!?」
「はぁ……はぁ……」
ファットの頬からは血が垂れていた。
一方エトは体力がいよいよ減り始め息を切らしていた。
「まさか、そうか。レベル1のくせに斬撃が使えるのか。でもまだそれも未熟。形になってないな」
「言われなくてもわかっている……!」
「生意気なガキが」
ファットは再びエトに向かって走り出す。
力の乗った重たいファットの一撃を足と腕に力を集中させエトはなんとか耐えるがそれも時間の問題で少しずつ剣が顔に近づき始める。
「そんなんで大丈夫なのかァ!!!」
「アァァァァ!!!!!」
その瞬間にエトは階層内の壁に吹き飛び煙が舞った。
煙が消えていくと壁にもたれかかるエトの姿があった。
「まだ立ち上がるのか。しぶといやつだ」
「……当たり前だ。僕が守るんだから」
(弱物理攻撃耐性を持っているがやはり所詮は弱。威力の高い攻撃にはそれほど意味がない。でもないよりはマシだ。現に今の攻撃は弱物理攻撃耐性が無ければ少しの血を流すだけには留まらなかったはずだ)
エトは額から垂れる血を拭い立ち上がる。
(昔、父さんは言っていた。エトはきっと良い剣士になれるって、だから自分をいつまでもとことん信じて戦えって。これまでの僕ならきっと今頃情けない姿をしていただろう。でも今は違う。今の僕は僕を信じられる。どこまでも)
エトは強く剣を握りファットに向かって走っていく。
ファットもエトの攻撃を防ぐために剣を構えた。
エトが一振りする動作をファットに見せる。
当然ファットは防ぐためにエトの剣に向けて剣をぶつけようとする。
しかしその時にはエトの姿はなく振りかぶった動作をそのまま活かしファットの背後にまわっていた。
「!?」
「終わりだ!!!!」
「ふっ、甘いな!!」
エトが背後から斬ろうとした時ファットがいつの間にか剣をエトのいる方に振ろうとしていた。
だがエトは冷静だった。
持っていた剣を軽く少しだけ上に上げ手を離すと右手で拳を作りファットの腹部に渾身の一撃を与える。
「グハッッッ!!!」
腹部にパンチを喰らったファットはエトに向けて振っていた剣の動作を止めその場を一度離れようとする。
しかしエトがこの好機を逃すはずがなかった。
上に上げていた剣が降りてくるとエトはそれを掴み思いっきりファットに向かって突き刺す。
「よ、よくも……」
「それよりなんでスキルを使わないんだ?」
「戦闘スキルを持ってないからだ。なにか悪いか?」
「いや……」
「そうか。まぁいい。こっから畳み掛けるぞ」
ファットはエトの顔に向かって拳をぶつける。
拳が顔に当たったエトは剣を持ったまま吹き飛んだがなんとか壁にはぶつからず体勢を立て直すことができた。
しかしファットはエトに隙を与えないためにすぐに次の攻撃をしかけに走り出した。
「ガキが早くくたばれェェ!!!!!」
「うるせぇ!!!」
痛みのある怪我をしているうえに体力も減ってきているのにも関わらず二人の剣のぶつかり合いは最初の時よりも激しさを増していた。
「どうした!!! もっと来ないのかァ!!!」
「おらぁぁぁぁぁぁあああ!!!!」
剣同士がぶつかって、ぶつかって、またぶつかって、弾き返して、弾き返して、また弾き返す。
両者一歩も譲ることなくただひたすらに剣を振るう。
「……ッ!!」
動きながら剣をぶつかり合わせている時、ファットは口から血を吐き出した。
どうやら少し前にエトが腹部に刺した剣が原因で血を吐いたようだ。
エトはファットが血を吐いたその一瞬の隙を見逃しはしなかった。
剣先をファットの腹部へと突き刺す。
しかし無理やりファットがその攻撃を剣で防ぐ。
無理やりな防御で体勢を崩したファットに対してエトは剣を弾き、再び剣を突き刺す。
「ッ!!?」
「…………」
エトの剣はファットの腹部に深く突き刺さり動きを止めた。
「……あぁ……やられちまった。すまんなロント……」
「はぁ……はぁ……どうしてルルを狙うんだ……はぁ……」
「……悪いがそれは教えられない。ロントの死が無駄になるからな。自分で考えることだな」
「そうか」
「……そういやお前はレベル1だったか。まるであいつみたいな強さをしてるな……」
「それは……一体どういうことだ?」
エトの問いかけにファットが応えることはなかった。
ファットはエトの体にもたれかかりダンジョン内に静寂の時が訪れる。
「はぁ……はぁ……疲れた」
エトは疲れが限界に到達したようでファットから剣を引き抜くとその場に勢いよく座り込んだ。
そしてファットを地面に優しく寝かせる。
「エト!!!」
「エ、エトさん! 大丈夫ですか!!」
エトは駆け寄ってくるルルを見つめて微笑んだ。
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