俺の最推しの謎の美少女配信者は、どうやら俺のクラスメイトで、密かに俺に片思い中らしい

空豆 空(そらまめくう)

第1話

「え………………?」


 俺――佐野さの亮太りょうたは、あまりの事に声も出せず、その場に釘付けになっていた。心臓は激しく鼓動しているのに、まるで呼吸の仕方を忘れたように息が苦しい。


「し――――――――」


 目の前には、謎の美少女としてじわじわと人気を上げている現役高校生ライバー『はなみん』がこちらを見ていて、まるで『はなさないで』とでも言うように人差し指を口元にあてている。


 

 その目はパッチリとした大きな二重で、部屋中の光を集めたかのような輝きを放ち、その美しい瞳は俺の視線を捉えて離さない。


 人差し指を添えた唇はぽってりと厚く、少しミステリアスな色気を放っている――




 そんな事態に遭遇中の俺は、今、カラオケ店のホールのバイト中。

 

 空いた部屋の片づけをしようと何の気なしにこの部屋に入ったところ、生配信中の花みんとばったり遭遇してしまったのだ。


 花みんは、顔出しをしていて人気があるにも関わらず、特定厨に一切身バレしていない謎の人気ライブ配信者。


 それがなぜ、俺のバイトしているカラオケの一室に??


 しかも俺は、その配信を毎回欠かさずに楽しみにしているイチ視聴者――つまり、花みんのファン。


 頭が真っ白になりそうになりつつ、俺が部屋を間違えたのかとペコリと一礼をして部屋の外に書かれている部屋番号を確認してみたが、間違えてはいなかった。


 けれど彼女だって片付けも終わっていない部屋を間違えて使い始めるとも思えず、バックヤードに戻って確認してみれば。


 俺の前のシフトだったスタッフのミスで、『清掃未』の札をスタッフ用ボードに貼り付けたまま清掃を終えて、次の客を案内してしまったようだった。



 しかしこの際そんなことはまぁいい。問題は――今、花みんの姿で使用されている部屋の使用者名が、俺のクラスの『花見はなみかすみ』だという事。



 花見かすみと言えば、モブ中のモブ……と女性に対していうのははばかられるが、前髪重めのおさげ髪に、おしゃれさ皆無の黒縁メガネ、いつも分厚い本を両手で抱え込んで俯きがちで、さらに大きなマスクをいつもしている目立たない生徒。


 

 対して花みんは、いつも笑顔を振りまきながら視聴者の心を掴んでは離さない圧倒的ビジュアルと、決して流暢だとは言えないけれどずっと聞いていたくなるような魅力的な話術を兼ね備えている。


 その笑顔は、まるで画面のこちら側に向けられていると勘違いするような、視聴者の心をほんの一瞬で虜にしてしまうような、魅力的な笑顔で。その笑顔のまま話すその話し方は、独特のリズムや表現力で視聴者の心を引き込んで離さない。ただ、聞いているだけで時間を忘れ、ついつい彼女の配信に夢中になってしまうのだ。


 そんな花みんと花見に、一体どんな関係があるというのか。



 ――と、考えていてふと思う。『花見』と『花みん』って……名前、似すぎやしないか?? “花見”にたった一文字、“ん” をつけただけで“花みん” になるじゃないか。


 なんて、いやいやまさか。あの謎の美少女と言われている花みんが、そんな本名から安直な名前を付けるはずがない。


 もやもやと考えながら仕事をこなす。いつもは各部屋から漏れ聞こえる歌声や笑い声で活気付いているはずの仕事場が、まるで別の場所に感じる。


 そうして落ち着かない心持ちのまま過ごした俺のバイト時間終了10分ほど前。

 会計に現れたのが、まさに花見かすみだった。


 姿はさっき見た花みんとは似ても似つかないという感じで、髪はおさげではないものの、いつも学校で見かけるそのままの雰囲気。


 重たい前髪にさえない黒縁メガネに大きなマスク。服装は絵にかいたような地味な格好。そして背中には大きなリュックを背負っていた。


 花見は退店がてらチラリと俺の顔を見た気がしたけれど、黒縁メガネと大きなマスクのせいもあってその顔色までは分からない。


 そのまま一言も発することはなく、淡々とセルフレジで会計を済ませて店を後にして行った――。


 まさか――あの花見が美人で人気な『花みん』であるはずはないよな!?


 俺は急いで花見が使っていた部屋を片付けに向かった。正確には、花みんがまだいるかどうかの確認をしたいというのが本音なのだが。

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