自身過剰本

@J0hnLee

自信過剰本


「さあじゃんけんをするよ、最初はグーじゃんけんぽん」

「あ~また一番上かぁ、いつもこうなんだよね」

「日頃の行いだよ、いつも僕は一番下だもんね。綺麗なまま売れていくんだ」

「ふん!偉くなったんだね」

と本たちの会話は続く。

じゃんけんで負けた本は一番上に置かれる。

平積みで一番上に置かれる本は書店でサンプルのように人の手垢にまみれる。

本達はいち早く読者の手元に置かれ愛読される事を望んている。

一番上が一番残りやすい。

積まれる順番は購入される順番と大いに関係がある。

一番下のポジションの本は下から引っ張り出すお客さんは少ないため、そう早くは売れないが手垢にまみれない分、きれいなままで愛読される。

お客さんは手垢で汚れてない本で比較的引き出し易い上からから四番目くらいを選ぶのが常だ。

「さぁ今日から書店デビューだ!みんな気合を入れて早く読者に愛読されるように頑張ろう」

と一番下の本が声をかける。

一番下の本はリーダー格だ。

「まぁ僕ぐらい品格がある本は一番下でもすぐに売れるんだけどね」

と自分が一番偉いという自信を持っている。

書店がオープンした。

今朝の朝刊に大きく広告が載っているので売れ行きは大丈夫だろうと書店員さん達は安心して平積みされた新刊を眺めて笑顔で会話している。

さぁ一人目のお客さんが来たよ~と本達は心躍らせている。

じゃんけんで負けた一番上の本がお客さんの手に取られた。

お客さんは目次をしっかり読んでいる。

そしてパラパラと本の三分の一くらいのページで手を止めて読み込み始めた。

そしてそのまま一番上の本をレジに持って行った。

「お先にね~」という一番上の本からの声なき声が残った本達に送られた。

次のお客さんが入店して本達の前に立った。

「今度こそ僕の番だ」

と一番下の本が自信過剰気味で言った。

「今日の朝刊で大きく宣伝されていた本だよな、これ」

と言っておもむろに手にした。

じっくり吟味したあと二番目の本をレジに持っていった。

一番下の自信過剰本はだんだん焦り始めた。

「僕が一番キレイで輝いている本だよ」と周りのお客さんに声なき声を送った。

その甲斐なく自信過剰本は見事スルーされて三番目の本、四番目の本と上から順番に購入されてい

く。

こんな異例な事はないと残った本達は不思議に思った。

「さすが超人気作家の新作は違うね」

と書店員さん達は嬉しそうにしている。

そしてもう平積みの本たちは後二冊になっているが

「あえて“よく売れているから少ないよ”とアピールするために補充しないでおこう」

とそのままにしている。

そして後二冊の上に置かれた本が売れて行った。

自信過剰本は一冊ポツンと売れ残った。


そこに書店員さんが来て自信過剰本を一番上に置いて新しく本を補充した。

「この流れだと今度は僕が購入される」とワクワクした自信過剰本。

次に入ってきたお客さんは一番下の本を購入した。

そして次々と下の方から購入されていく。

「まぁ僕ぐらい品格がある本は一番下でもすぐに売れるんだけどね」

とか

「僕が一番キレイで輝いている本だよ」

と調子にのっていたからこんな事になったんだと自信過剰本は反省した。

サンプル係として手垢にまみれてもそれはそれで自分の役割だと思った時、夫婦のお客さんが入ってきた。

「これが話題の新刊ね」

と奥さんが言う。

「もう買うことに決めてるんだ」

「面白そうだもんね」

「うん、じゃ買ってくるね」

「ちょっと待って、あなた。どうして人の手垢にまみれた一番上の本を持って行くの?」「だって、ネットで買わず本屋さんで手にとって見る人は本当に読書好きな人なんだよ。そんな人たちの手垢にまみれてても、それは読者好きの人の思想が染み込んでるから好きなんだよ」

「変な人ね。私にはわからないけどあなたの思うようにするのが一番ね」

と夫婦は笑顔で話した後、変な人は自信過剰本をレジに持っていった。

変な人は自信過剰本の反省のオーラを受け取って購入し、一生その本を大切にした。


おしまい

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

自身過剰本 @J0hnLee

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ