悩む少女と笑う少年、そしてビキニパンツ。


 菜々花に右腕を伸ばして支えているビキニパンツが、しゃがみ込んだまま空いた手を顎に寄せ、考える素振そぶりを見せた。


「ふむん。それは困った」

「困ってるのは、街の人だっ! 『を見たうちのお婆ちゃんの目がハートになってて、どうしたらいいですかっ』とか『店のスタッフが期待して窓の外ばっかり見てて……』とか相談を受ける私達の気持ち、わかる?! 家の中で走れ! 逃げ足はやたら早いし……!」

「逃げてなどいない。それに君もヘソを丸出しにしてるではないか。私と何が違う? 眼福だが」

「全然違うし、態勢考えてよ! 見んなあああ!」


 菜々花は必死でTシャツを引っ張り下げた。


 が。


「今度は谷間と柔肌。としてはありがたいが、君に私を責める資格がどこにある? 眼福だが」

「きゃあああ!」


 下に伸びたTシャツの襟の中、紺のブラトップから覗く白くふくよかな胸の谷間に、ビキニパンツは眩しそうな表情を浮かべる。


「もう離せ! 私を触るな見るな、変態!」

「君が自力で上がってこれるなら手を離そう」

「言い方も上からすぎて腹立つ! 足を怪我してたってこのくらい! ……つぅ!」

「爆発でガンベルト同様に、シューズもダメージの耐性値を超えたようだな。その足では無理だ、手は離さない。引っ張り上げるぞ」

「そ、そんな……」


 痛みに顔をしかめた菜々花が、項垂うなだれた。


 と、その時。


「……おい、オッサン!」

「む?」

永見ながみ魁人かいと……!」


 フラフラと立ち上がった魁人が、隣のビルの屋上から忌々いまいまし気な表情でビキニパンツの男を睨みつけ、叫び始めた。


「横から突き飛ばしやがって! しかも美味しい所総取りなんてふざけんな! なあ? 菜々花ななか、そんなキワモノから早く離れ……あっ。怪我してるから動けねえのか!」

「永見! 誰がやったと思ってるのよ!」

「キワモノとは解せぬ。少年、その目は曇ってるようだな」

「アンタ、それはツッコミ待ちよね? そうだよね?」


 ニヤニヤと嫌な笑顔を浮かべ笑う魁人に、またしても肩を竦めたビキニパンツの男に驚愕の表情を浮かべる菜々花。


「ま、いっか! 菜々花、その男をぶっ倒した後に俺が看病してあげるから、安心しろよな! 何ならビルから落ちてもいいぜ!」

「……何だと?」

「まずはあの男を片付けろ!」


 眉をひそめたビキニパンツに、ヘリや戦車のドローンから発射された弾が襲い掛かる。


「さ、来い」

「きゃっ」


 ビキニパンツが菜々花を引っ張り上げ、銃弾からかばい始めた。


「何でアンタ、私をかばうのよ!」

「少年に、ちと意趣返しがしたくなってな……むんっ!」


 ビキニパンツの男が放った石礫がヘリに直撃した。


「俺のヘリが! ちきしょう!」


 だが、ヘリの銃弾は容赦なく二人に襲い掛かる。


「アンタ、血が……! 早く逃げて! 私の事はいいから!」

「ふむん、実弾ではないな。君がいるからか? まあ実弾でも変わらんが。で、な? 君に頼みがある。反撃に協力をしてくれないか?」


 背中に銃弾を浴びながらも余裕の表情で話すビキニパンツの男に抱えられ、目を白黒させる菜々花。


「反撃? エアシューズだけで何をするつもり?!」

「できる。片付けるのは簡単だ。が、ただ反撃するのは芸がない。実は今日、感情を起点にして効果を生み出すサプリの新型を試していてな」

「サプリ……強化系の?」

「うむ。で、いい機会だ。今までのタイプと比較したい。私の感情と情熱を揺さぶってくれないか」


 ビキニパンツが、菜々花にそっと耳打ちした。


「え?! まさかアン……貴方が?!」

「ああ。君の自警団に強化や治癒型サプリを下ろしているのは私の会社だ。そして私の社外活動時の呼び名を付けてくれたのは、団長さんさ」

「で、でもでも! できません! 何の関係があるんですか! 見せられません! お嫁に行けなくなっちゃいます!」


 弾を背中に浴びながら涼しい顔で話を続けるビキニパンツに魁人が焦り始めているのをよそに、耳に軽く吹きかかったビキニパンツの息に体を震わせた菜々花が、顔を真っ赤にして抗議を始めた。


「くっそ! オッサン、裸じゃなくて装備してやがんのか!」

「君は、悔しくないのか?」

「……え?」

「正義や悪を、ここで論じるつもりはない。だが、君の代わりにあの男に一矢報い、君は捕まえる。私はサプリの効果を確認できる。一石二鳥だろう。何、興奮が力となるか否か知りたいだけだ。一瞬でいい、君の肌を今一度拝見させてくれまいか」


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