第7話 レベルアップ

 確かに俺は素振り程度の練習でも、スキルのレベルが低いうちは大丈夫だと言った。だがな、流石に一発拳を振っただけで上がるのは異常だぞ。その一発に、それほど神経を研ぎ澄ましていたというのか?


「あたふたしているハルの様子を見るに、本当にレベルアップしているようだが…… 一応、確認させてもらっていいか?」

「は、はい」


 カノンからパクった神問石かみといしでハルのステータスを確認する。軽率にステータスを見せてはいけない? 師匠は別なんだよ。


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桂城悠那 16歳 女 人間

職業 :魔法使いLV1

HP :10/20

MP :5/5(+5)

筋力 :3

耐久 :3

敏捷 :3

魔力 :4(+3)

知力 :1

器用 :1

幸運 :1


スキルスロット

◇格闘術LV2

◇未設定

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 格闘術スキルがレベル2になっている。マジか。


「ハル、お前一体どうやったんだ?」

「どうやったと言われても…… いつも通り、死ぬ気でやっただけなんですけど」


 死ぬ気で、か。きっと文字通りの意味でやってんだろうな。しかもいつも通りって事は、こいつにとっては日常的に神経をすり減らすのが普通なのか。気が触れているにもほどがある。


「師匠、何やらステータスも上昇しているようなのですが?」

「あ、ああ。ついでに話しておくか。スキルレベルが上がれば、そのスキルに対応したステータスも上昇するんだ。今ハルが上げた格闘術であれば、そうだな…… HP、筋力、耐久、敏捷だな。まあ、実際はスキルを覚えた時点で多少は上がっていたんだが」

「なるほど! スキルを上げて、ステータスも上げる。こうやって強くなっていくんですね!」


 やっぱり実際にやらせて正解だったな。座学と違って、すんなりとハルの頭に入ったようだ。しかし、これは逸材なのかもしれない。1週間なんて甘っちょろい事は言わずに、もっと早くに判断しても良さそうだ。


「ハル。午後から夕食を準備するまでの間、適度に休憩を挟みながらその鍛錬を続けてみろ。その結果次第では、正式に弟子入りを許してもいい」

「本当ですか!? 私、頑張りますね!」

「ああ、期待してる。やるからには休憩も全力でしろよ? たぶん同じ事をするにしても、お前は他の奴らよりも体力使ってるからな」


 俺が言わずとも、ハルは分かっているだろうけどな。


「了解です! 他の武術も試していいですか? 柔道や合気道は組手相手がいないから限定されますけど、趣味でやっていた拳法とか」


 ……合気とか部活にあるのか? 幅広く色々やってんのな。


「問題ない。ああ、そうだ。ちょっとレモン切ってくるわ」


 それから俺は自分の仕事も忘れて、ずっとハルの鍛錬風景を眺めていた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 鍛錬開始から4時間が経過した。そろそろ適当な時間だとハルに声を掛け、タオルを渡す。休憩も合間にしっかりと取っていたんだが、全身全霊を掛けて鍛錬に励むハルは汗びっしょりである。これは夕飯の準備よりも先に、湯あみをさせた方がいいかもな。幸いな事に、我が家には俺が苦心しながらも自作した風呂がある。風呂なんて王族貴族の屋敷か高級宿にしかないからな、あの頃は俺も必死だった。


「ふわぁ、やっぱり体を動かすのは良いですね。段々とキレのある動きになってきて、高みに上っているのが実感できました。最高の気分です」

「そりゃあ、やってるうちにガンガンスキルレベルが上がっていたからな。キレも良くなるわ。どれ、ちょっとステータスを見せてみろ」

「あ、これで師匠の弟子になれるか決まるんですよね? 緊張するなぁ……」


 俺が神問石かみといしを差し出すと、ハルはおずおずとした様子で石板に手を触れさせた。


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桂城悠那 16歳 女 人間

職業 :魔法使いLV1

HP :10/95

MP :5/5(+5)

筋力 :18

耐久 :18

敏捷 :18

魔力 :4(+3)

知力 :1

器用 :1

幸運 :1


スキルスロット

◇格闘術LV17

◇未設定

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「―――レベル、17! ……ク、クククッ、クハハハハ!」

「師匠?」

「フ、フフッ…… ふぅー。いやー、笑った笑った。ハル、お前本当に面白いのな」


 この半日で一気にここまで上げてしまうとはな。モンスターの巣に投げ込んで、昼夜問わず死闘を繰り広げさせたって、ここまでの成長は見込めないだろうに。


「ええっと、いまいち師匠のお言葉の意味を察せないのですが…… もしかして、弟子としての見込みがなかった、とか?」

「いやいや、十分過ぎるほどだったよ。おっと、その前に回復してやるか。 ―――ヒール」


 回復魔法で成長した分のHPを癒してやる。俺の指先から放出された小さな光が、ハルの体へと溶け込むように消えていった。これで全快したかな。


「わぁ、ぽわぽわします」

「斬新な表現だな。それで弟子入りの件だが、許可しようと思う。じゃ、飯行くか」

「軽いっ! 試用期間が短縮したのは嬉しいですけど、師匠ちょっと軽過ぎません!?」

「ハッハッハ」


 冗談だよ、師匠ジョーク。正式に弟子にするなら、これをしなければ。


「そうだな、飯の前に―――」


 このスキルをポチポチ、と。ステータス画面に新たな表記が現れる。


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◇特殊スキル『無冠の師弟』の対象を指定します。

 対象者:桂城悠那

 このスキルの発動は1度のみです。本当によろしいですか?

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 ふう、なかなかに感慨深いな。あの頃は弟子なんて考えもしなかったし――― ほい、イエス。これでハルにも選択画面が出る筈だ。


「……無冠の師弟? 師匠、これは? 何か、師匠の弟子になるかって選択肢が出ました」

「餞別、は意味が違うか。お前を正式に俺の弟子にする為の儀式みたいなものだ。別にやらなくても弟子としては認めるが、どうする? おっさんがうら若きハルを罠に掛けようとしているのかもだぞ」

「イエスで」


 ハルはノータイムで指を押した。微塵も迷わないか。


「そんな鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしないでくださいよ。私、これでも師匠の事を信頼しているんです。迷う必要なんてありません」

「1日やそこらで、こんな大人を信頼するのもどうかと思うが」

「私は目も良いですが、鼻も利くんです。師匠からはそんな匂いがしますから」

「犬かお前は……」

「どちらかといえば猫派です」


 違う、そうじゃない。ああ、もういいや。


「今の契約については後で説明してやる。職業レベルとセットで話した方が分かりやすいしな。取り敢えず、風呂で汗を洗い流してこい。夜は冷えるから風邪ひくぞ」

「はーい。師匠、夕飯は何が良いですか?」

「マッシュポテト以外なら何でもいい。あれは食べ飽きた」

「もう、好き嫌いは駄目です!」


 何時の間に仕込んでいたのか、ハルが風呂から上がると夕飯の料理は直ぐに出て来た。食欲を掻き立てる、凶悪な香りを引き連れて。ただ、パジャマ代わりなのかハルはジャージ姿だった。風呂上がりの色香が少しは出るかと思ったが、そんな事はなかったよ。


 ―――修行1日目、終了。

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