第3話 村娘

「ステータス……?」


 千奈津の疑問に満ちた呟きを余所に、ヨーゼフは説明を続ける。


「こちらの石板は『神問石かみといし』という神の祝福を得た特殊なアイテムです。こちらに手をかざし、己の力を示すよう念じれば石板にステータスが表示されます」


 ヨーゼフが目配せすると、白ローブの集団は生徒達1人1人に石板を1枚ずつ渡し始めた。悠那や千奈津にも同様の石の薄い板状のものが手渡される。


「……悠那、ステータスって、地位とか立場って意味の?」

「うーん、この場合はゲームで使われるステータスだと思うけど。私は息抜きにやったりするけど、千奈津ちゃんの家にはないもんね。某有名RPGロールプレイングゲームとか分かるかな?」

「えっと、ドラゴンとかが出てくる、ファンタジーの?」

「そうそう。ああいうゲームにはキャラクター毎に力とか賢さ、魔力っていう能力、所謂ステータスっていうのがあってさ。この状況を置き換えると、私達にもステータスが設定されているのかもしれないね」

「詳しい――― あ、そっか。悠那の家は弟さんがいるものね」


 運動大好きな悠那がゲームに詳しかった事に少し驚いた千奈津であったが、以前千奈津が悠那の家に遊びに行った際、小さな男の子が2人でテレビゲームで遊んでいた記憶を思い出した。


「そうなんだよー。お蔭様で私も巻き込まれた訳でして。ま、やってみると意外と面白いものだよ。ほら、特に男子達の喜びようは凄いでしょ?」

「う、うん……」


 悠那が口にするように、一部の男子達の盛り上がりようは見ていて少し怖くなるほどだった。千奈津と同じ考えを持つ女子グループはかなりドン引きしている。


「石板は行き渡りましたかな? 早速でありますが、英傑たる皆様の最初の使命がこのステータスの開示になります。是非とも、私共に貴方達の偉大なるお力を拝見させて頂きたい。何、簡単な事です。皆様が最高峰のお力を持っているのは必然。ただ石板に、力を示すよう命じればよいのです」


 白ローブの部下らがもとの定位置に戻ると、穏やかな表情のままヨーゼフが皆に石板を使うよう促してきた。悠那と千奈津はどうするべきか悩んでしまう。一方で、いの一番に行動に移る者もいた。


「おい、見ろよ! これが俺のステータス――― あーっと、職業が戦士で、LV4……? LV4、レベル4って意味か? レベル4って強いのか?」

「おお、素晴らしい! 戦士のレベル4ともなれば、熟練の強者ですぞ! 流石は勇者様です!」

「マジで!? やっべ、俺の隠された才能が遂に目覚めちまったか!」


 石板を使った生徒達を中心に、歓声が上がり始める。今のところ、率先してステータスを表示させてみた男子は全員が褒め称えれているようだ。その雰囲気に当てられたのか、それまで否定的だった生徒までもが徐々に石板に手を伸ばそうかと半信半疑になっていた。


「へ~、レベル4は低いのかと思ったけど、そうでもないみたいだね」

「……私、ああいうのは嫌かな。雰囲気に騙されている気がする」

「確かにちょっと不自然だよね。私達はどうする?」

「ええと―――」

「あ、何だ? 悠那と千奈津はまだステータス見てないのか?」


 ステータス開示の輪が広がる中、2人が目の前に置かれた石板を見詰め迷っていると、最も早くにステータスを明らかにしたグループ唯一の女子、水堀刀子みずほりとうこが話し掛けて来た。健康的に日焼けした褐色肌、灰色がかった髪色に着崩した制服はいかにもなギャルといった印象だ。真面目な千奈津には理解できないところか。但し、刀子の視線はどちらかといえば悠那に向いている。


 刀子は見た目こそは不真面目で言葉遣いも荒いのだが、これでも1年生にして空手女子のキャプテンとして部員を引っ張る、悠那と同じスポーツ少女なのだ。接してみれば意外と面倒見も良く、部員からは慕われている。しかし、部活の助っ人として参加していた悠那との勝負ではかなり負け越しており、それが理由なのか、悠那を一方的にライバル視している節がある。


「悠那、早くステータスを見てみろよ。ちなみに俺は格闘家のレベル5だったぜ! よく分からねぇけど、何か凄いらしい! めっちゃ褒められた!」


 普段ゲームをやらない為か、刀子は意味をよく理解していないらしい。それでも褒められて嬉しいのか、大きく胸を張って自慢げだ。大きな胸が特徴的で、そこは圧倒的に勝っている。


「そ、そっか。良かったね。レベル5だと、相当強いのかな?」

「あのじじいの話だと、いっきとーせん? だとか、かなり興奮気味に言ってたな」

「一騎当千ね。でも、本当に私達にそんな力があるのかしら……?」

「そんなのは知らねぇよ。まあ、良いんじゃねーか? 気晴らしがてらに付き合ってやるのもよ。千奈津は考え過ぎなんだよ。ほら、あきらの奴なんて職業が勇者なんだぜ? っぷ、めっちゃ笑える」


 刀子が指差す先には、金髪の美男子がいた。塔江晃とうえあきら、ここ最近になって高校生モデルとして脚光を浴び始めた、女子に人気の男子生徒だ。すらっとした長身で愛想も良いが、どこかチャラついており、何人もの女子と付き合っているとの噂が絶えない。不良ではないのだが、千奈津としてはクラスで要注意人物として気を配っている男子である。


「今のところ、レベル5なのは私と晃だけっぽい。ほら悠那、さっさとやれって。俺が認めるお前の事だ、絶対お前も良い線いくって! ま、私以上はないだろうけどさ!」

「あはは…… 千奈津ちゃん、どうする?」

「ハァ。もう皆やってしまったようだし、仕方ないか。良いわ、私達もやるだけやってみましょ」

「うん! それじゃ、早速―――」


 千奈津がやる気を出した後の悠那は速かった。どうやら内心気になっていたようである。そんな悠那に溜息を漏らしながら、千奈津も石板に手を当て、ステータスを表示するように頭の中で考えてみた。やがて石板の表面に青白い光が浮かび上がり、文字らしきものを描き始める。


「どれどれ、悠那は一体どんな能力に――― あん?」



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「―――いや、もういい。大体お前の状況は理解した」

「え? ここからが問題なんですけど、良いんですか?」


 俺は目の前で熱弁を振るう少女、桂城悠那に待ったを掛けて止めさせた。


「ったく、ヨーゼフのじじいめ。また面倒事を押し付ける気だな、くそ……」

「あの、デリスさん? 本当に今の説明で分かったんですか?」


 カノンが疑わしそうな目を俺に向けながら質問する。いや、分かるだろと。魔法騎士団の一員なら、それくらいの洞察力を養えと。


「俺は無意味に人の不幸話を聞きたくないんでね。大方、予想に反してこの子が力不足だったんだろう? 期待していた仲間からは蔑まれ、じじいからは落胆された。で、対応に苦慮したヨーゼフのじじいは勇者を無下にもできず、当て付けのように俺へ押し付けようとしている。違うか?」

「あ、少し違います。まず団長の弟子にしてはと打診したのですが、きっぱり断られてしまいまして。その後のヨーゼフ様の決定で、デリスさんに弟子入りする事になりました」

「結局同じだろ。ってかおい、あいつの意思は尊重して俺は無視か」

「だって、団長怖いじゃないですか……」


 だってじゃないよ。一応身なりは整えているが、そもそもカノンに処遇を任せている時点で、この子がぞんざいに扱われている事が手に取るように分かってしまう。それ以前に一介の高校生をクラス毎召喚とか正気かよ。ああ、もう。


「―――神問石かみといしは持って来てるのか? ステータスを見ないと話しが始まらん」

「師匠、それじゃあ……!」

「まだ師匠じゃない。見るだけだ」


 カノンにさっさと神問石かみといしを出させ、ステータスを表示させる。ダメ出しされたとはいえ、神の恩恵は得ている筈だ。そこまで酷い筈は―――


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桂城悠那 16歳 女 人間

職業 :魔法使いLV1

HP :10/10

MP :5/5(+5)

筋力 :1

耐久 :1

敏捷 :1

魔力 :4(+3)

知力 :1

器用 :1

幸運 :1


スキルスロット

◇未設定

◇未設定

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 ―――うん。何と言うか、あれだな。


「そこらの村娘より酷いな」

「あ、それお爺さんからも言われました!」

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