第184話 後遺症
―――トライセン城
「洗脳の後遺症、か。てっきり魔王を倒して元通りになったと思っていたんだけどな」
「他の者達はそうだったのですが、入念な洗脳を受けたせいかシュトラちゃんだけはこの通り幼いまま、それに記憶が疎らなようでして。ですがゼル国王の記憶が抜け落ちていたのは幸いでした。少なくとも肉親が亡くなった悲しみを背負うことはありませんから。私やメル様が魔法による治療を試みたのですが、どうやら心理的な問題のようでして効果がなく…… だとしても、時間が解決してくれると願っているのですが……」
シュトラの方を一瞥したコレットが言葉を詰まらせる。ヌイグルミを抱きながらリオンと笑顔でお喋りをするシュトラは誰から見ても子供そのものだ。
「今回の戦争の原因は魔王です。異種族を忌み嫌うといったトライセンの方針自体にも改めるべきところは多々ありますが、最終的には自身の手で国を復興して貰いたいと連合は考えています。ゼル国王がいなくなった今、その務めを全うできる適任者がシュトラちゃんでした。民からの信頼が厚く、機知に富み、芯の強い子でしたから。しかし当のシュトラちゃんがこの状態では、彼女が回復するまで代役を立てるしかないでしょう」
「代役って言うと、順当に考えればアズグラッドか? 第一王子だし、お姫様と同じくトライセンの名も継いでいるんだろ?」
どうしようもなく戦闘狂ではあるけど。
「面倒なことにそうなっちまうんだよな。俺は柄じゃねぇっつうのに。ようケルヴィン、生きてたか。お前も飯か?」
噂をすれば何とやら。アズグラッドが珍しくも貴族衣装で現れた。パーズではいつも戦闘用の装備を着ていたからか、物凄く不自然に感じてしまう。
「トライセンにはアズグラッド王子を含め5人の王子がいらっしゃったのですが、第二~第五王子までの全員が行方不明になっています。捜索は現在も続けているのですが、未だ見つからず……」
「大方城から逃げ出したか、その辺でくたばっちまってるんだろうよ。兄の俺が言うのも何だが、どいつもこいつもトライセンの名を継ぐ資格のねぇろくでもない奴らだったからな」
ああ、確かに。第三王子だかの豚君が4人いると考えればろくでもない話だ。
「だけど行き成り国政を担うなんて大丈夫なのか? 国王が魔王でした、なんて国民に理解させるのはかなり無茶振りだぞ?」
「鉄鋼騎士団のダン将軍が王子の補佐を。デラミスや他二国も協力しますので、何とかしてみせます。行き過ぎた奴隷制度など改正すべきところはさせて頂きますけどね。ここは私たちの領分ですし、ケルヴィン様はケルヴィン様のやるべきことをなさってください」
確かに、この高性能巫女様なら任せておけば大丈夫な気がする。メルフィーナが変にタッチしない限り暴走することもないだろう。 ……ないよね? 万が一あっても獣王やツバキ様が止めると思うが、ここはコレットの言葉を信じたい。国政なんて俺は微塵も興味ないしな。
「要はシュトラが治るまでのお飾り、王座にふんぞり返って座るだけのマジで退屈な仕事だ。だがシュトラには世話になっていたからな。あいつの手回しがあったからこそ、俺は軍で好き勝手できていた。これくらいの恩は返してやらねぇとな」
「そうか。お姫様、早く元に戻ると良いな」
「ああ。それまではケルヴィン、シュトラをよろしく頼むぜ!」
「……は?」
バンバンと笑いながら俺の背を叩くアズグラッド。ごめん、よく聞こえなかった。
「まだメル様からお聞きになっていないのですか? ケルヴィン様のお屋敷でシュトラちゃんが療養する予定になっているのですが」
「悪いが言っている意味が分からないんだが…… なぜそうなる?」
「トライセン国内は暫くゴタゴタが続くだろうからな。お前らのお陰で軍の戦力も半減して立て直しの最中、この機に乗じてシュトラを狙った悪事を働く奴がいないとも限らねぇ。で、この前の話合いで出た意見に政治的争いのない安全な場所に移動させるってのがあってよ。見事採用となった」
「もしかして、その安全な場所ってのが―――」
「ケルヴィン様のお屋敷です」
「おそらくは世界随一堅牢な場所だ。シュトラも戦時中、お前の屋敷は調査できなかったようだしな」
おいおい、家主の同意もなしに何勝手に決めてんのさ! うちは猛犬猛竜ハラペコ女神が遊歩する魔境なんだよ!? か弱いお姫様を住ませていい場所じゃないぞ!
「あ、それ僕の意見なんだ。シュトラちゃん、アレックスとも仲良くなったし。 ……駄目かな?」
「シュトラ姫、今後暫くの間お世話することとなりました、冒険者のケルヴィンです。よろしくお願い致します」
片膝を床に付き、シュトラ姫に挨拶する。兵を消耗させてしまった非は俺らにもある訳だし、これくらいのことはお安い御用だ。
「あ、は、はい。こちらこそ、よろしく、です……」
挨拶は返してくれたが、リオンの後ろに隠れてしまった。しかし背がリオンよりも高いので隠れきれていない。む、今いつもの笑いはしてないぞ、俺。
「クク、懐かしいな。この頃のシュトラは人見知りだった」
「ええ、不謹慎ではありますが、幼少の頃を思い出します」
「もう! アズグラッドお兄様もコレットちゃんも馬鹿にしないでよ!」
急に饒舌になるシュトラ姫。どうやら人見知りってのは本当らしい。心を開いてくれるまでは時間がかかりそうだ。リオンは例外である。
『メルフィーナ、偽装の髪留めを1つ用意できるか?』
『……? ああ、なるほど。数時間もあれば作れますよ』
『じゃ、頼んだ』
流石にこのままじゃ見た目のギャップで目立つからな。姿を歳相応に偽装すれば違和感ないだろう。っと、今度はエフィルの反応をマップ上にキャッチ。移動が遅く、何名か後ろに連れているようだ。
「失礼致します。昼食をお持ちしました」
姿を現したのはいつものメイド服のエフィルと、この城のメイドと思われる女性が数名。全員配膳台車に山盛りの料理を乗せて給仕をし始めた。そんな中、エフィルが真っ先に俺の方へとやって来る。
「ご主人様、ご無事で何よりです。お世話することができず、申し訳ありませんでした」
エフィルの言葉は冷静だが、エルフ耳が犬の尻尾かと言うくらいにピコピコと動いている。
「いや、いいんだ。エフィルも無事で良かった。少し、耳が長くなったな」
「はい。進化して通常のエルフの長さまでに、あの……」
エフィルの顔が赤い。無意識にエフィルの耳を弄ってしまったせいか、周囲のメイドが影でキャーキャー言っている。エフィル、メイド達に何を話した。まあいい、この場は鑑定眼でステータスだけ確認しておこう。
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エフィル 16歳 女 ハイエルフ 武装メイド
レベル:119
称号 :爆撃姫
HP :1108/1108
MP :3463/3463
筋力 :503
耐久 :500
敏捷 :3306(+640)
魔力 :2159(+160)
幸運 :1687(+1437)
スキル:蒼炎(固有スキル)
悲運脱却(固有スキル)
弓術(S級)
赤魔法(S級)
千里眼(A級)
隠密(A級)
奉仕術(S級)
調理(S級)
裁縫(S級)
清掃(A級)
鋭敏(S級)
強魔(B級)
成長率倍化
スキルポイント倍化
補助効果:火竜王の加護
隠蔽(S級)
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ハイエルフ、エルフの上位の存在。エフィルの耳が長くなったのはこの為か。リオンやジェラール同様、固有スキルも得ているな。通常スキルは見た感じそのままなのでポイントを振っていないようだ。
そのまま流れで始まる少し早めの食事であったが、結局皆で完食してしまった。いや、メルフィーナひとりで事足りると言ったらそれまでなんだけど。
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