第126話 続・波乱の会食
―――パーズの街・会食会場
「巫女様、お顔色が優れないようですが、そろそろお暇致しますか?」
「いえ、私は大丈夫です。あなた達は下がっていなさい」
「は……」
デラミスの護衛達がコレットを気遣いに来るが、即座に断られる。俺らには割りとフレンドリーに接してくれているが、やはり部下に対しての遣り取りには威厳があるな。酒の入った状態ではあるが、流石デラミスの巫女と言えよう。
しかし、それにしたってコレットの様子はおかしい。昼間の青い顔とは裏腹に、今は顔が真赤なのだ。メルフィーナは注意しろと言うが、これは心配してしまうぞ。シルヴィアも再び食事モードに戻ってしまったし。
「あ、あの…… ケルヴィンさん、私少し酔っちゃったみたいで。夜風にでも当たりませんか?」
「ええ、構いませんよ。やはり飲み過ぎていたんですね。少し休みましょう。シルヴィアはどうする?」
「私はそろそろエマのところへ戻る。楽しかった、また誘ってね」
食べるのに集中し過ぎて全く会話に参加してなかったけどな。シルヴィアが楽しんでいたなら別にいいんだけどさ。同じ釜で飯を食う仲にはなれたってことかな? いったんシルヴィアと別れ、コレットと共にテラスへ向かう。
『あなた様、親心ながら引き返した方が…… 今なら間に合います』
『仮に匂いで感付いたとしても、そんなの証拠にならないよ。それに、こんなに体調が悪そうじゃないか。少し風に当たるだけさ』
『私が心配してるのは別です。前にも言いましたが、コレットは少々病気で、その―――』
『病気がちなら尚更じゃないか』
『ハァ、どうなっても知りませんよ?』
テラスに向かう途中、視界にジェラールたちの姿が入った。何かこっちを遠巻きに見ている。あの男三人衆、随分と仲が良くなったな。肩なんか組んじゃって。
「む、意外じゃな。コレット殿をお持ち帰りするのか。国際問題にならんといいがのう」
「うーむ。あっしもシルヴィア狙いかと思っていたんだが……」
「だから言っただろ! シルヴィアはそんなふしだらなことはしねぇんだよ! つか、やっぱりそういう目で見てたんじゃねぇか!」
白熱しているようだが、何の話をしているんだろうか?
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
テラスに出ると満点の星空が俺たちを迎えてくれた。個室に繋がるように広がるテラスは想像以上に広く、同じくらいのテーブル席が用意されている。お、一番奥にはセラとプリティアがいるな。何やら真剣な面持ちで話をしているようだ。邪魔しないよう、ここは離れておこうかな。
「コレットさん、あちらの席に行きましょうか」
「はい」
椅子を引いて、そこに座ってもらう。外は適度に風が吹いて中々心地良い。コレットも少しの間ここにいれば、多少は体調が良くな――― あれ? 何か俺を見るコレットの目が、最初の頃と違うような気が……
「コレットさん、本当に大丈夫ですか?」
「コレットでいいです」
「え?」
「私のことはコレットと御呼びください」
「は、はぁ…… では、コレット」
俺が名前を呼んだ途端、両腕で抱きしめながらビクリと自らの体を震わせるコレット。瞳は別の何かに染まっている。こ、これ大丈夫なの!?
「ありがとうございます。その、ふしだらなお願いではあるのですが、宜しければ代わりにあなたのことを…… ケルヴィン様と呼ばせてください!」
「はい? って、コレット!?」
唐突な告白と共に俺に抱き付いてくるコレット。しかも、俺の胸元で物凄い勢いで匂いを嗅ぎまくっている。並列思考を使っても状況整理に追いつかない。
「やはり、この芳しくも高貴であり至高を極めし天上の香りはメルフィーナ様のもの! ああ、瞳を閉じれば白雪のような眩い光が、絢爛華麗を体現した御身の姿が浮かび上がって参ります!」
と言うより、俺の頭が真っ白です。
「メルフィーナ様から巫女の天命を受けて早十余年。せめてメルフィーナ様の香りだけでも拝受しようと鍛え上げたこの嗅覚に、この至近距離での間違いはあり得ません! この残り香具合から言えば、ここ数日のうちでメルフィーナ様と接触しています…… メルフィーナ様の香気を携えるケルヴィン様は――― 天の使い、神の使者様なのですね!」
しかも、やたらと的確な物言いだ。そして顔が近い。目が怖い。
『だから言ったではないですか。コレットは『病気』なのです』
『紛らわしいわ! これじゃただの狂信者だろ!』
『……仕方ありませんね。この距離であれば、今の私でも神託は下せます』
お、直接出ますか。
「コレット、聞こえますか?」
脳に語りかけるように、俺とコレットにのみ聞こえる波長でメルが神託を下す。
「この声は…… メルフィーナ様!」
「声が大きいです。ここは大聖堂とは違い、防音はされていないのですよ?」
「も、申し訳ございません。興奮してしまいまして、ハァハァ」
謝る姿もなぜか官能的に感じられる。危険察知スキルよ、もう少し早く反応して欲しかった。後でランクアップさせておこう。
「あなただからこそ話しますが、彼は神埼刀哉と別件で行動しています。デラミスに戻っても、知らぬ振りをして通して下さい。誰にも知られぬよう、決して彼の邪魔をしないように厳命します。ただし、その条件を満たした上でのコレットのみの力による助力は許可します」
さりげなく情報を聞き出す口実も盛り込んでくれた。メルフィーナ、グッジョブ!
「は! しかと承知致しました。あの、つかぬ事をお聞きしますが、ケルヴィン様はメルフィーナ様とどういったご関係で……?」
「……私の夫です♪」
「ブフォッ!」
思わず吹き出してしまう。
「何を驚いているのですか。昨夜はあんなに激しかったというのに……」
それは貴方の寝相が悪いだけです。
「あ、ああ…… ケルヴィン様、私、とんでもなく失礼なことを……」
コレットが抱き付き体勢からへたり込むように地べたに座る。いや、謝る以前に夫違うから。
「コレット、違うんだ。メルとは―――」
「愛称で呼ばれるほどの仲、最早疑いようがありません…… ケルヴィン様、どうか非礼なる私を踏んでください。私の体を蹂躙してくださっても結構です。むしろしてください! どうか、どうか!」
「ちょ、ちょっと! うわ、鼻血が!?」
こうして俺は足に組み付くコレットをなだめる作業に入るのであった。
「こ、こう?」
「そうよぉ~、セラちゃん上手いわねぇ! 私が見惚れるレベルよぉ!」
幸か不幸か、セラは何かに集中していた為に俺達に気がつかなかった。
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ケルヴィンとコレットが個室からテラスに出て行くと同時に、男三人衆も気付かれぬよう窓際へ移動する。どうやらセラ達とは反対側の席に座るようである。
「ほう…… 良い雰囲気ではないか。星空の下で語り合う二人、我が主も手が早いのう」
「巫女様のあの目、あれはもうベタ惚れしていると見た」
「っは、やっぱりただの好色男じゃねぇか」
各々言い分は別であるが、とる行動は同一、ガン見である。
「おおっ! 巫女様が彼に抱きついたぞ。見掛けによらず強気だな」
「しかも胸元に顔を擦り付けておる。あれはもう落ちておるな」
「っは、あれがデラミスのナンバー2かよ。だらしねぇな」
「ナグアもあれくらい積極的になれればなぁ…… 毎回毎回遠回しの行動ばかりしおって」
「な!? 俺は関係ねぇだろうがぁ!」
行動は同一、ガン見である。
「むほう! おいおい、こんなところでアレはいいのかのう!? コレット殿が王の下半身に……!」
「若いとは良いものですなぁ。時折、思いもよらぬ行動をしてくれる」
「おいっ! おっさん共図体でかいんだからそんなに前のめりになるなっ! 見えねぇじゃねぇか!」
ガン見である。
「ナグア達、何してるのかな?」
「シルヴィアは気にしなくてもいいことだから、アレは視界に入れないで。あ、エフィルさん。この料理の作り方も分かりますか?」
「ん、それは私のお気に入り」
「ええ、大丈夫ですよ。明日お教えしますね」
「えっと、それじゃあ私も教えてほしかったり……」
「あはは、アリエルも早く想い人さんに気付いてもらわないとね~」
「リ、リオンさん、しーっ! ですよ!」
こちらの女子会は平和であった。
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