第15話 烈火
後方に引き、すぐさまクロトに意思疎通で指示を出す。
「騎士なら後ろに下がるより、前に出たほうが良かったんじゃないか?」
「ふん、あの位置からの戦闘ではお主が不利であろう?」
「そりゃ、どうも!」
分裂し、数十の風の刃となった
クロトはその隙を付き、ジェラールの斜め後方から4本の鞭を叩きつける。ラジが手も足も出せず、更にはケルヴィンの
「ぬん!」
「なにっ!?」
俺は驚愕する。ジェラールはその鋭敏な攻撃の2本を受けきり、残りを左手で掴み、右足で踏み潰したのだ。クロトの筋力ではジェラールに対抗できず、拘束されてしまう。
こいつ、後ろにも目があるのか!?
『ジェラールは心眼のスキルを所持します。瞬間的な状況判断に補正がかかっているとお考えください』
生半可な攻撃では無意味か。厄介だな。しかし、このままではクロトが危険だ。クロト、奴との間に
意思疎通した直後に、クロトの目の前に
よし、やれ!
ジェラールの左手と右足に残ったクロトの体が再び動き出し、纏わり付く。一瞬、赤い光がジェラール
を包み込み、爆発した。ラジを倒したことでレベルアップしたクロトが取得したスキル『分裂』。体の一部を切り離し、己の分身として操作することができるのだ。切り離したクロトの分身は、保管に貯蔵していた魔力の一部をエネルギーに爆発を引き起こす。要は自爆だ。
「……そのスライム、随分と多芸じゃな。掴んでいた際も随時ワシの魔力を吸い取っておった。そしてこの自爆、近づき難いのう」
ジェラールは悪態をつくが、その素顔の見えない表情はどこか嬉しそうに見える。漆黒の篭手はクロトの爆発の威力で少々歪になったが、まだ剣を振るには影響はない程度だ。
「どれ、面白いもんを見せてくれた礼だ。ワシも剣技を披露するとしよう」
大剣を上段に構えたジェラールは俺に向って振り下ろす。
おいおい、あの身の丈程もある大剣の剣筋が見えなかったぞ……!
『全力で横にお跳びください!』
これまでに無いほど焦ったメルフィーナの声を聞き、俺は即座に横に跳躍する。跳んだ直後、ズドンッ、と鋭い音が鳴り響いた。
「マジかよ……!」
それまで俺が立っていた場所が真っ二つに斬られたのだ。ジェラールの奴、斬撃を飛ばしてきやがった!
「―――!!! 初見で
「不可視でこの速さか、悪い冗談だ」
メルフィーナの咄嗟の助言で助かったが、あのまま動かなければ俺もあの地面と同じようになっていただろう。すまない、メルフィーナ。
ジェラールが次の手を打つ前に、
体勢を崩しながらも、ジェラールは見えない斬撃を再び放つ。ケルヴィンではなく、壁の奥にいるであろうクロトに向けて。
チッ、あの不安定な足場でも御構い無しかよ。
「ぬっ、スライムの姿がないだと!?」
その言葉を発すると同時に、崩れた地表から突如剣が現れ、ジェラールの腹部目掛けて刺突が放たれる。その剣はカシェルの愛剣であったミスリルソードであった。スライムの軟体で裂けた地面を突き進んだクロトが保管から取り出し放ったのだ。
「ぐ……」
心眼持ちのジェラールも、視覚外かつ予想外であるこの攻撃には対応できずに負傷してしまう。更に、クロトは体の密度を集中させ硬質化した3本の槍の腕を撃ち放つ。
ジェラールはこれを剣で応戦、神速の如き剣速で全てを打ち払われ、攻撃した筈のクロトが逆にダメージを負ってしまう。
本当に凄いな。
ケルヴィンは率直にそう思う。裏をかき、奇襲し、隙を突く。そのどれもが対応されている。
だが―――
「これで詰みだ!」
無理な体勢で迎撃を行ったジェラールは今、完全に無防備な状態。残りの魔力全てを込め、
「―――!?」
垂直に落とされる空気の重圧により、ジェラールの体には何十倍もの負荷がかけられ、思うように動くことができない。ましてや、腹にミスリルソードが刺さったままの状態だ。クロトの追撃をいなしただけでも賞賛に値するだろう。
クロト、保管に回した全魔力でぶっ放せ!
クロトは地面の中で体を変化させる。その形姿はさながら口を大きく開いたドラゴンのよう。そして、クロトの持つ最大の技を放出する。
―――
開口部から放たれたそれは、ジェラールを貫き、古城を破壊し、空の彼方へと消えていった。
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