第2話 パーズの街

 メニューさん、もといメルフィーナの突然の告白? から俺は立ち直り、近くの街を目指している。街を目指して移動する最中、転生前の経緯を大まかに聞いた。


 転生前、俺は事故で死んでしまったらしい。もっとも、この事故は神様(メルフィーナではない)の手違いで起こしてしまったようだ。そんな神様が転生を司る神であるメルフィーナに特別処置を求めてきたそうだ。メルフィーナ曰く、このケースはそれなりに起こることらしい。神様も間違えるもんなんだな。


『意外と適当な神も多いですので。私は真面目ですよ?』


 こんなことを俺の脳内で言っているメルフィーナは、元々神様に仕える天使だった。長年の功績が認められ、転生の女神としてこの世界区画の担当をしていたそうだ。他の神と比べると、神に成り立ての若い神だ。まあ、これもメルフィーナの言を信じるなら、なのだが。


 メルフィーナは内心またか、と愚痴を言いつつも俺の対応をしてくれたらしい。


『あなた様はスキルを選ぶなり、私に契約を迫ったのです。君に惚れた、一緒に来てくれ! 等など小一時間口説いてくださいました。私もこの役職に就いて数百年、少々飽きを感じておりましたので、その案に乗らせて頂きました』


 ……俺に記憶は全くないのだが、どうやら俺はメルフィーナに一目惚れをしたらしい。今はメルフィーナの声しか分からないんだけどね。あとお前、やっぱり適当だろ。


『神にも安息の時は必要なのです。言わば有給休暇です。仕事は部下に投げてきたので大丈夫ですよ。かれこれ数十年分休んでおりませんし、そろそろ充電しませんと』


 部下ぇ……って俺の転生は旅行扱いか! それなら記憶を返してもらいたい。


『転生前の自身の記憶の消去はあなた様が決められたのですよ? スキルポイントが足りないから、記憶を対価に増やしてくれ。とおっしゃられていましたね』


 俺は惚れた相手に何を言ってるのだ。記憶を無くしたら惚れるも何もないだろうに。


『記憶を無くしても、俺ならまた君に恋をする! なんて甘いセリフもありましたね。あまりに一直線だったので、不覚にもキュンとなって許してしまいました。好感度+1です。おめでとうございます』


 うおぉ、もうその辺で止めてくれ。記憶はないけど自分の黒歴史を見られたような気持ちでいっぱいだ…… 不覚だが、メルフィーナはそれほどまでに俺の好みの容姿をしていたってことか。そう言われると、段々とメルフィーナを拝見したくなってきたぞ。


「もう契約しているってことは、メルフィーナを召喚することができるのか?」

『今は不可能です。実体化に必要なMPが圧倒的に足りていません』


 出鼻を挫かれた。当面の目標は、レベルを上げてメルフィーナの召喚をできるようにすることだな。


『あなた様のご成長と、斬新な告白を楽しみにしております。』

「告白はせんぞ」


 などと話しているうちに、街が見えてきた。


『あれが目的地の街、パーズです』


 そこそこ大きな街のようだ。周囲を石壁で囲い、その内側に家を作っている。現代日本とは違った街並みが心をくすぐる。ちなみに今の俺の格好は、この世界の旅人の標準装備だ。特に怪しまれることはないだろう。


 石壁の出入り口は東西にそれぞれあるようだ。門番に近づく俺、この世界初めての人間との接触である。お、門番が俺に気がついたようだ。


「やあ、君は冒険者かい? 済まないがギルド証か身分証を見せてくれないか」

「いえ、私は辺境の小さな村の出身で、身分証も持ってないんですよ。」


 事前にメルフィーナと打ち合わせした通りに応対をする。この世界では身分証を持っていない者も多い。その為か、この規模の街の門では身分証の発行も行っている。少々金もかかるが、こちらもメルフィーナが転生時に持たせてくれていたので問題ない。仕事は投げたが、仕事はできる子のようだ。


『だから元々真面目なんですって』


 身分証の発行を無事に終え、目的地であるギルドに向かう。最初は半信半疑だった俺だが、今はファンタジー生活を満喫する気満々である。

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