二話 住まう条件
部屋を移動し、客間に来た。望緒の隣には飛希、彼女の真正面に真澄、その隣には赤い髪に黄色の瞳を持った男性が座っていた。
「まずはお名前、それからここに来た経緯を話してもらえるかしら」
「えっと……神和住望緒です。廃神社に行って、お賽銭箱に五円玉を投げ入れたら灯篭に火がついて、火に囲まれたと思ったらここに…………」
「なるほど、それが引き金となってここに来たわけだね」
男性にそう言われ、望緒はこくりと頷いた。
「今まで来てた子たちはどうしてたかしら?」
「各々どうしたいかを聞いて、自由にさせてたよ。……中には、元の空間に戻った子もいた」
「……!」
戻った。それは地獄に戻るのと同じことであり、望緒が最も選択したくない事である。
彼女が黙っていると、隣に座っている飛希が優しく問いかけてきた。
「望緒はどうしたい?」
「––––か、帰るのは……いや、です」
望緒がそう言っても、この場にいる誰も責めたりはしなかった。むしろ、優しい笑みを浮かべている。
「なら」
真澄が手をパチンと叩いて、一つ提案をする。
「ここに住む?」
「えぇ!?」
「ちょ、母さん……!?」
思わぬ発言に二人は驚く。が、隣の男性だけは真澄の方を見て、柔らかく微笑んでいる。
「ね、いいでしょう?」
「うーん、じゃあ一つだけ条件を設けようか」
「「条件?」」
二人の声が重なると、男性は人差し指を立てた。
「僕らの神社の巫女になること。それが条件」
––––巫女? 巫女って、あの巫女さん?
その巫女以外考えられないが、突然のことに驚きを隠せない。
神社というのは、恐らく先程望緒の目の前にあった神社のこと。そこの巫女をすることが、条件になるということだが、望緒は巫女の助勤なんてしたことがない。
が、このまま断って外に出されることより、右も左もわからぬままやった方が幾分マシである。
「よ、よろしくお願いします!」
彼女は最悪の事態を想像し、勢いだけでそう答えた。
「じゃあ、すぐに部屋を用意するわね。飛希、案内してあげて」
「うん、わかった」
◇
一般的な家よりも幅が広い廊下を歩いている時、望緒は隣を歩いている飛希に話しかけた。
「あの、すみません、居候しちゃって……」
「大丈夫だよ。こっちこそ、父さんが急にごめんね」
「お父さん? ……ああ」
彼の父親は、真澄の隣に座っていた赤い髪に黄色い目の男性だろう。
「あの、飛希さん」
「呼び捨てでいいよ、敬語もなくていい」
「わかった。あの、この空間は何? 飛希たちはどういう立場なの? 私以外の人たちは今どうしてるの?」
望緒が質問攻めをすると、飛希はあわあわと慌てる。
「待って待って、順に答えるから。でも、そんなに詰め込んで大丈夫? こんがらがっちゃわない?」
「平気。それに、今知らないとモヤモヤして寝れないと思うし」
「……わかった。じゃあ、それも含めて部屋で説明するよ」
◇
望緒の部屋となる場所へついた。彼女が想像していたよりも広く、少し興奮している。
「それで、何から聞きたい?」
「えっと、この空間は……? どうして飛希たちは普通に受け入れてるの?」
「うん、まず、この空間は創造神である
眠っているという単語に少々引っ掛かりはしたが、質問したことは答えてくれたので、望緒は次の質問にうつった。
「じゃあ、飛希たちはどういう立場の人なの?」
「僕たちは、望緒が現れた神社に奉職する身なんだ。村の頭領みたいな感じ」
そこまで言うと、飛希はそれでと続ける。
「石火矢家だけじゃなく、他に三家ある。
一気に情報が流れてきたからか、望緒は頭の中がこんがらがってしまった。飛希が言ったことを復唱しているが、あまり理解出来ていない様子。
「まあ、これはおいおい知っていけばいいよ。で、確か最後の質問だったよね」
「あ、でもちょっと待って」
「ん、どうしたの?」
望緒は一旦頭の中で言いたいことを整理し、口を開く。
「別に私が巫女にならなくても、家の人がやったらいいんじゃないの? あそこ、そこまで広くなかったよね?」
質問し終わると、飛希は「ああ……」とつぶやき、話し始めた。
「えっとね、四家に生まれた者は、必ず奉職しないといけないんだけど、男性が神職、女性が巫女になるんだ」
望緒は飛希の話を真剣に聞き、うんうんと何度も頷く。
「けど、うち––––本家には僕以外の子供がいない。つまり、巫女になってくれる人がいないんだ。村の子どもたちは作法を身につける段階でへこたれちゃったし、いとこなんかは
「なるほど……」
と、言っているが、内心そんなにわかっていない。彼女は神社で働くことなんて何も知らない、理解もしがたかった。
「今は母さんが少し巫女のような仕事をしてくれてるけどね。でも、そのうち若い巫女は欲しいみたい」
「そう、なんだ。……最後の質問いくね。私以外の人も来てるんだよね、その人たちは今どうしてるの?」
「火の村に転移してきた人たちは、一旦僕らの家で望緒に言ったみたいに誘うんだけど、あんまりやりたくないみたいでね。そういった人たちは、村に住んでもらってるよ」
望緒はさっき「お願いします」と言った。断っていないから、村に住むのではなく、石火矢家に住まわせてもらうというわけ。
申し訳ないことをしてしまったとも考えたが、望緒が断ったら巫女をやる者がまたいなくなってしまうため、断らなくて良かったとも考えた。
「他に質問したいことはある?」
「えっと––––」
彼女は狐の面のことが気になったが、まだ聞いてはいけないような気がしたので、特にないと答えた。
答えると、真澄が
「あらかた話し終わった?」
「うん、言えることはだいたい」
「望緒ちゃん、部屋に欲しいものはある? 一応机と布団は部屋にあるんだけど」
そう言われ部屋を見てみると、押し入れと背の低い机が置かれていた。
先程は広さばかりに着目していたため、気づかなかったらしい。
「今のところ、特に」
「わかった、またいつでも言ってね。それで、急ではあるけど、明日から巫女として働いてほしいの」
「あ、わかりました」
望緒が答えると、真澄はそれじゃあと言って、飛希と共に部屋を後にした。
彼女はだだっ広い部屋で一人、寝転がる。
––––私は向こうでは生きられない、かあ。
この場所で上手くやっていけるのか、巫女の仕事はきちんとできるのか、そんな懸念が頭の中をぐるぐるとかき乱してくる。
何の音もしない静寂のなか、望緒は静かに眠りについた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます