第2話 惑星エデン~見守る者たち

 母艦・イムドゥグド。

 以前少しだけ話をしたと思うが、宇宙人たちの母艦は人工恒星ヘリオスを中心に居住母艦イムドゥグド、観測船ヴィマーナ、研究実験棟を有するデータベース艦天磐舟の三艦が周回する疑似恒星系である。

 今現在は観測船ヴィマーナが衛星としてエデンを周回しているため、イムドゥグド、天磐舟の二艦編成となっている。

 今回は宇宙人たちのコロニーの話である。

 イムドゥグドは、半径20000キュビト長さ400000キュビトの巨大な筒状のコロニーだ。人工重力制御技術の未発達な時代に設計・建造されたもので、筒を回転させることで重力を発生させている。三重四重の分厚い外壁で構成されており、多少の塵や岩石が接触しても外壁はびくともしない。頑丈さは折り紙付きだ。

 内部には母星を模したと言われる景観と区画整備された居住区が壁に張り付くように広がっている。その他観測した惑星毎に環境を再現した巨大温室や水槽、岩窟が何基も建てられていて、今はエデンの環境再現棟が建造されている。

 尤も、植生、菌類、脊椎動物、甲殻類、節足類、昆虫といった複雑怪奇に絡み合った生態系は地球とエデン以外はほとんどなく、超高圧のメタンの海、希薄な大気で昼夜超高温超低温に晒される砂漠、潮汐ロックで恒星からの光に晒されるか万年闇に包まれる氷床の極地と薄闇の赤道付近、といった極端な環境ばかりだ。




 惑星エデンが属するその星系は、主星のすぐ脇を回るガス惑星ホットジュピターや巨大な岩石惑星スーパーアースやミニネプチューンといったごくありふれた構成ではなかった。三つ四つの微細な岩石惑星が主星のやや近くを回り、外側を五つ六つのガス惑星が取り囲む特殊な構造だった。以前よく似た配列の星系を観測した記録と照らし合わせ、今いる単一恒星系がどこで誕生したのか調べたところ、かつて観測した地球が所属する単一恒星系と同じ星域で誕生したことが判明した。つまり、この星系は星団として誕生しながら、なんらかの理由で連星になり損ねた片割れだったのだ。

 それが判明したとき、彼らは非常に歓喜した。

 ならば、惑星の組成も酷似している可能性があり、条件を整えてやれば地球と同じような酸素好気性生物進化の過程を観測できるかも知れない、と彼らは考えたのだ。


 まず、海洋惑星を地軸を軌道面に対して約20度傾いた状態で安定させることにした。観測船ヴィナーナをヘリオス周回軌道から切り離し、ロシュの限界に近づきすぎてばらばらに引き裂かれないよう細心の注意を払いながら海洋惑星の衛星として周回させる。

 ヘリオスより遥かに巨大な恒星から吹き付ける恒星風の荷電粒子から観測船を守るため、ジャイロ効果による高磁力線磁場発声機能を備えた十六枚のパネルを設置。通称ロータスの花弁を十六枚展開させた。そしてプローヴを四基周囲に展開させて二十四時間観測できる体制を整えた。地表で採取したサンプルを回収、天磐舟に輸送するための運搬用プローヴを四基周囲に展開し、地表を常時観測できる体制も整えた。

 ヴィナーナは地上からは太陽を追って回転する金色の光の花と四つの蕾に見えるかもしれない。


 人工恒星ヘリオスと生活居住区イムドゥグド、データベース収集艦天磐舟は星系外縁部に待機させることにした。

 いかにヘリオスが最小規模の恒星と言ってもガス惑星程度には巨大だ。そんなものを観測対象の衛星にはできないからである。



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