石けり

木菓子

石けり

あ、こらこらそこの君、石をけりながら帰るのはあぶないよ。

なにか厭なことがあったって顔してるね。

子供だって苦悩はある、わかるよ。

でも誰かにあたったら大変だし、何よりみちを歩いているのは人だけじゃない。

そんな君に、けった石のせいで怖いおもいをした子のはなしをしよう。


彼は君より少し背丈が高い男の子だった。

あまり怪我もしないおとなしい子でね、帰り道はいつも友達としゃべりながら帰ってた。

でも彼の家は遠くてね、ある曲がり角をすぎるといつもひとりぼっち。

退屈しのぎに石をけりながら歩くことも多かったんだ。

町工場やちいさな神社のある道で、ひらけているけど人通りは少ない、そんな感じの道だった。


男の子だからね、彼はできるだけ石をまっすぐ飛ばすことにご執心だった。

石が壁にぶつかっても、標識にあたって甲高い音をあげてもおかまいなしに彼はできるだけ遠く、まっすぐに石をけった。

そんな石はある日散歩中の犬にあたってしまったんだ。

悲しいことに、目のあたりだったらしい。


彼はとっさのことに声が出なかった。

石をあててしまったこともそうだけど、なにより石をもってこちらに向かってくる飼い主の男の形相が恐ろしく見えた。

大柄なその男は無表情だった。

「この石をもっていろ。次お前にあった時、この石を見せろ。さもなくばお前の目を抜き取る」

男は短く告げて去っていった。


目には目を、ということなのかな。

変わった人ではあるけど、こんな人もいるからね。

君もけった石を一生肌身離さずもっているのは厭だろう?

それじゃ、気をつけて帰るんだよ。

え、結局その子は石をもっているのかって?

どうだろう、わからないけどもってるんじゃないかな。

どうやっても摘出できなかったらしいし。

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石けり 木菓子 @kigashi35

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