発端

それは純粋な想い、願い。

だが、外から見れば、ただの狂気。




 あの人がいない事に、耐えられない。あの人にもう一度会いたくて、様々なことに手を出した。


 最初は、AIだったろうか。あの人に関わることすべてを打ち込んだけれど、そんな欠片は役には立たなかった。周囲にはかなりの評価を受けたが、そんなものは意味はない。何をすればいいのか、思いつく限りに手を出したが、指から水が溢れるが如く、なんの手応えもないままに、月日は流れて行く。構築したAIは助手として役立つようにはなっていた。


「もう一度、会いたい。」

幽霊でもなく、人造で創られた存在でもなく、ただのあの人に会いたい。狂おしいまでの執念が彼女の中の何かに火をつけた。


どうすれば良いのか。

タイムトラベルで過去に赴き歴史を変える。

魂があるのであれば、それを取り戻す。

様々な理論を展開し、検討し、解析し、研究を続けた。


居なくなった存在を補うすべが無いことを実感させることだけが、積み重なっていく。思い出も薄れ、己が体も老いていく。


だが、たった一つの想いだけが色褪せずに、執念となっていく。


「あの人に、もう一度会いたい」


彼女の片腕となった存在は、彼女のその思いだけを成立させるために活動を積み重ねていく。


時空を歪める、不可を可にするように世界を再構築しようとする、様々な試みがなされていく。


一人では果たせぬ事を成し遂げるためにsystemを構築し、更に拡張していき、同じものは多分二度とは存在しないだろうと思わせるほどの複雑さをもたらした。


彼女は構築途中で死を迎えたが、構築は自動化され更にsystemが拡大していった。


systemを成立させるために、根源としてある方法が採られた。世界を呪う事で、世界を歪めようとするものだ。


どんな思いがあれば、人は狂えるのか。どんな事があれば、人は呪うのか。

何をすれば、呪われた世界になるのか。



「アノヒトのイナイ世界ナド、呪ワレレバイイ」

歪んだ想いが増々歪んでいく。

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