コドクのタネ

凰 百花

第1話 


 気がつくとカプセルのような寝床にいた。


蓋を開けて起き上がると、殺風景な部屋の中だ。コンクリの打ちっぱなしのような壁に四方を覆われている。明かりがないのにほのかに明るくなっていて周りの様子がうかがえる。

そうはいっても、ガランとしたなにもない、見知らぬ部屋だ。


「ここは、一体?」

部屋の壁の一部が発光し、画面のようになったかと思うと、画面には人形が映っている。


布で出来た男の子の人形だ。ちょっと頭が大きめで、人形に合わせた椅子に腰掛けている。


「やあ、起きたかい。はじめまして」

画面からなのか、声が響いた。


「ゲーム、『神の名のもとに』にようこそ。このゲームのクリア方法、君たちがするべき事は、たった一つのことだ。

外に出て他の人達と殺し合ってほしい」


何を言ってるんだ。


「急にこんなことを言われても戸惑うだろう。だが君たちには、このゲームに参加する事しか選択権はないんだよ。

この空間に出入口はない。だから出入り口を探しても無駄だよ。

それに後で部屋の外に出てもらうと判ると思うけど、生きていくために必要な水も食料もない」


改めて部屋を見渡せば、確かに何も無い。


「食料や水、その他に必要な物が欲しいなら、誰かを殺せば良い。殺せば報酬として、必要な物を手に入れることができるだろう。とてもシンプルだ、理解りやすいゲームだろう。古来より行われてきた方法さ」


クツクツと笑い声が聞こえてきそうな、愉しげにその声は語る。


「それでも素手同士で戦うのは骨が折れるだろう。まして、殺し合いだ。

そこでプレゼントだ」


画面の下に一振りの長剣が現れた。


「人によって現れた武器は少し違う。その人に合わせてあるからね。

大丈夫、今はまだ飛び道具はない。切り合って殺し合ってね。殺し合うのには、どんな手段を使っても良いよ。ただ相手を殺せればいい。

こちらが気に入るような方法ならば、報酬もより良くしよう。それから、沢山殺せばボーナスもあるよ。より生き残りやすくなるための力をあげよう。

あ、この力をもっている人を殺したら、殺した人の力になるから。強い人を殺せば、強くなれるよ。ここはそういう所だから。

それで、生き残った者にはご褒美として、此処から出してあげる。最後の一人になれたらね。

ここにあるルールは殺し合うことだけだ。だから、人が手に入れたものを奪っても何しても構わないよ。ちゃんと殺し合いさえしてくれれば。

それじゃ、諸君の健闘を祈る。なんてね」


プツと画面が閉じた。画面のあった壁にドアが現れた。恐る恐るドアを開けると、目の前には荒野が広がっていて、ポツと灰色の四角い建造物が見える。あの四角い構造物はここと同じに人がいるのだろうと感じた。


「ここは一体、何処なんだ」

ドアを閉め、発光源がないのに仄かに明るい部屋の中、先程まで横たわっていたカプセルに腰掛けて考える。


人を殺せという。自分が生きるためにも、人を殺さなければ生きていけないという。どうしたらいいのだろう。


部屋にある唯一の品と言っても良いのか、おいてある長剣を手に取った。


これで自分に人を殺すことができるのだろうか。

いいのか、人を殺して。


彼は外に出た。その手には長剣が握られている。

辺り一面は荒野だ。草木の一本も見えない。ただ、平坦な地面だけが連なっている。空は夕焼けじみた赤い色で太陽も星も月も見えない。



覚悟を決め、その長剣のきっさきを己の胸に当て一気についた。





「何だコイツ。アホじゃね」


彼の側に一人の男がやって来た。自害した彼のことを蹴飛ばすと、少し彼が動き、小さくうめき声がした。死にきれてなかったのか。


「お、ラッキーじゃん」

男は躊躇うことなく、彼にトドメをさした。すると、死んだ彼の死骸がダンボール箱に変わった。その中には500mlの水と菓子パンが2つ入っていた。


「シケてんな」

水とパンだけを男は持ち去っていった。

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