第2話「村の子たちを教え育てる」

 いきなり魔動発電はちょっと無謀だったなと反省した。


 滑車をつくったり水車を回したりするくらいなら、わりと受けいれられたからである。


「ルネスってすげえな」


「神童ってこの子のこと言うんだな」


 大人たちの見る目も変わったのはよかったが、目立ちすぎた感は否定できない。

 こうなると予想していたから当初は自重する予定だったんだが。


 相変わらず生活水準は高くない。


 この村だと入手できる材料にかぎりがあるし、そもそも外の世界でも文明に大きな違いはないと、旅商人や旅芸人から確認できた。


 ……俺ひとりで向上させようとすると、何十年かかるかわかったもんじゃない。

 前世でもやったように、弟子たちをとって協力してもらうほうが早いと判断する。


 幸い、弟子の候補は何人も見つかっていた。

 

「ルネスー? こんな感じでいいのかな?」


 教えたように木製の棒に魔力を通して、大きな樹の幹をあっさり両断してみせたローズ。


「言われた通り練習してたら、とりあえずこんな風になったよ」


 と言って大きな火球を五つ、水の球を三つ、氷の球を四つ、雷の球を四つ、土の球を四つ浮かべているサビーナ。

 


「五人同時に治癒はできたのですけど、六人は難しいですね。あと解毒は弱いものが精いっぱいです。研鑽が足りないのでしょうか?」


 おっとりとした口調で、中堅神官でもできないことを言い放ち、可愛らしく首をかしげたドルシラ。


「カラクリ車って壊れやすいんだよな。ルネス、いい知恵ない?」


 発明家レベルのモノをつくって悩んでいるアガタ。


 彼女たちは俺より数年早く生まれただけの子どもなのだが、すでに大人顔負けの領域に足を入れている。


 何でこの村ってこんなに才能の持ち主がいるんだろう? とさすがの俺もびっくりした。


「そうだな」


 順番に指導したあと、休憩を入れようと提案する。

 全員能力は大人レベルと言っても体は子どもに過ぎない。


 休まないと倒れてしまうのだ。

 この年齢だと体力回復魔法を使うのは、デメリットが大きい。


「じゃあ、ルネスくん、どうぞ」


 ドルシラが自分の膝をぽんぽんと叩くので、言葉に甘えて彼女のやわらかい太ももを枕にする。


「可愛いよね、ルネスって」


 と言いながらローズが俺の頭をなでた。


 ルネスとなってから初めて気付いたのだが、女子の「可愛い」はどうも褒め言葉らしい。

 

 なので黙って受け入れる。


「ルネス、水飲む? 氷出す? 風で涼しくする?」


 ローズの反対側に座ったサビーナに質問された。


「だいじょうぶ、ありがとう」


 必要を感じないのに動いてもらう必要はないと断る。


「ボクにできることがあったら何でも言ってね」


 と言ったのはアガタ。

 何というか、このメンバーはなぜか俺を甘やかそうとしてくる。


 年下の男子だからだろうか?

 女性心理については前世に続いて謎のままである。


 解き明かそうと考えたことはないが、やろうとしてもできる気はしない。


 四人といっしょにしばらくのんびり過ごしていると、遠くで不穏な気配が近づいて来る。


 どうやら何かあったようだなと思いながら、ドルシラの枕を堪能していると、傷だらけの猟師が四人ほど戻ってきた。


 うちひとりは腕、胸、足が血だらけで、左右から若者に支えられている。


「父ちゃん!?」


 その一番傷が深そうな男性を見て、ローズが驚きの声をあげた。

 ローズの父って村で一番いい猟師だったはずだが……。


「お前か……」


 とりあえず俺は起き上がって、ドルシラに指示を出す。


「傷を癒しちゃって」


「いいのですか? あまり大きな力を使わないほうがいいはずでは?」

 

 ドルシラは俺に小声で耳打ちする。

 

 子どものうちからあまり強大な力をふるうと、本人のためにならないと言い聞かせていたからだな。


「あれだけ傷が深いと死ぬかもしれないから」

 

 人の命にはかえられない。

 ましてやローズの親である。


「たしかに。わかりました」


 ドルシラは立ち上がってローズの父たちに近づき、治癒魔法を行使した。


「気持ちはありがたいが、村の神父様に頼むほうが……!? バカな!? 傷が治っただと!?」


 ローズの父は俺たちの力を知らず、信じていなかったので断るつもりだったようだが、ドルシラが治すほうが早かったな。


「し、信じられない。助かるかわからないと思ってたのに」


「それに俺たちのケガまで全部治ってるぞ!? ドルシラ、いったいいつの間にこんな力を!?」


 猟師たちはいっせいに騒ぎだす。


 十歳そこそこの子が、大人顔負けの実力を見せるというのは、やっぱり強烈なインパクトがあるようだった。


「こつこつと努力を積み重ねた結果です」


 ドルシラは大人びた微笑を見せる。


 清楚な美少女がやると、何とも言えない雰囲気が出るようで、大人たちは一瞬黙った。


「それでおじさんたち、どうしたの?」 


 ローズの父親が傷だらけになるなんてただごとじゃないはずだ。

 大人たちはハッと我に返って、シリアスな表情になる。


「それがアーマーベアーが出たんだ」


「アーマーベアー?」


 たしか鉄の鎧みたいな毛皮と筋肉を持っている大型の熊型の魔獣だったか。

 

「ああ、石の槍も矢も、鉄製の剣も砕かれて、逃げるしかなかった」


 とローズの父は悔しそうに言う。


 アーマーベアーの強さを冒険者の等級に置き換えると、第四位の下のほうくらいだったか。


 ローズの父がいくらいい猟師で腕も立つと言っても、冒険者換算だとせいぜい第六位くらいだと思う。


 実力差、それに村人レベルの装備だったことをを考えると、生きて帰って来れただけ奇跡だな。


 そこはベテラン猟師のなせる業ということか。


「村長には話して、街の冒険者に救援を求めてる。退治されるまで、村の外には出ないように」


 とローズの父は言う。

 救援が来るとしたら最低でも第四位の人たちだろうな。


 ……人間の血を覚えたアーマーベアは、獲物を追いかけてくる可能性がけっこう高い。


 街からの救援が間に合えばいいんだけど。

 と考えてると、四人の少女が同時に俺を見ている。


「とりあえず村の中で様子見かな」


 俺の言葉にみんなうなずく。

 手柄をあせる必要なんてまったくない。

 

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